サッカー専用競技場を外国人の受け皿に
10年ぶりにキャンピングカーを借りて西日本を周遊している。
子どもの卒業旅行を兼ねて、ということなので、できる限りの名所を巡っているのだが、改めて外国人旅行客の多さに驚かされている。
前夜、別府温泉にある竹瓦温泉という昭和13年創業の素晴らしくレトロな公衆浴場にお邪魔したのだが、更衣場にいたのは全員が外国人だった。わたしたちが服を脱ぎ、かけ湯をし、湯につかるさまはいくつもの目に注視され、まったく同じ所作をして風呂に入ってきたのには微笑ましい気持ちにさせられた。
度肝を抜かれるぐらいに驚いたのは鹿児島県知覧町にある特攻平和会館だった。10年前に訪れた際は、入館者の100%近くが日本人だったように記憶しているが、今回私たちが訪れた日は、完全に日本人が少数派だった。
「きょうは船が入っているので、特に多いんですよ」
なるほどその日は豪華客船ダイヤモンドプリンスが鹿児島港に入港していた。とはいえ、港から知覧まではかなりの距離があるし、記念館のテーマからして、欧米人にとって愉快なものとは思えない。にもかかわらず、館内は欧米人客が多数派を占め、食い入るように資料を見つめる見学者の中には、涙している方が何人もいた。
ちなみに今回の旅で一番外国人客と出会わなかったのは、長崎のピーススタジアムだった。市内、ど真ん中、充実したフードコート、そしてスタジアム上空を滑空できるジップラインと、子どもたちには今回の旅のベストプレースだったようなのだが、外国人客の姿は皆無だった。
もちろん、ピーススタジアムはできて間もないということもあり、まだ外国人のネットワークにひっかかっていない、ということはあるのだろう。ただ、既存のスタジアムにしても、観客数における外国人客の割合が、名所や繁華街などに比べるとずいぶん低い気がするのはわたしだけだろうか。
振り返ってみれば、私が初めてカンプノウを訪れた88年スペインは観光大国としての地位を築きつつあったが、わざわざサッカー場まで足を運ぶ人はそういなかったということなのだろう。
だが、21世紀のカンプノウにおいて、外国人は少しも珍しいものではない。白人による白人のための娯楽場だったイングランドのサッカー場は、世界中から訪れる多種多様な人種で埋まるようになった。
つまり、スポーツはインバウンドの受け皿にもなる。
外国人の中には、日本旅行に際して、食の豊かさに感激しながらも、「食べる以外の夜の楽しみが少ない」と感じる人が多いという。だとしたら、ナイトゲームで行われる野球やサッカーは、恰好のコンテンツとはいえまいか。米国人がプレミアやリーガのスタジアムに足を運ぶ時代である。独自の応援文化を持つ野球や、世界でも屈指の安全と、食の充実を誇るサッカー場は、旅行客を喜ばせるポイントをしっかりと押さえている。
おそらくは近い将来、野球場もサッカースタジアムも、外国人が珍しくなくなる時代が来ることだろう。
もっとも、すべてが専用競技場で行われる野球に比べ、まだ陸上競技場の少なくないサッカーはいささか分が悪い。陸上競技場でのサッカー観戦? そこに特別な意味を見いだす人は、圧倒的に少ないだろうからだ。
<この原稿は25年4月3日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>