場の支配の必要性を説いた“晴明”と、その術を身につけた“SEIMEI” ~野村萬斎×羽生結弦~

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 羽生結弦が14日、NHKラジオ第1「野村萬斎のラジオで福袋」にゲスト出演した。羽生は7日に放送された前編に続いての出演となった。ふたりは「notte stellata 2025」で共演したプログラム曲の「SEIMEI」を通じて、表現者としての在り方を語り合った。

 

 「あの曲に助けられた」

 

 萬斎は羽生を呼び込むと「元々、羽生さんとのつながりはSEIMEI。私が主演(安倍晴明役)した陰陽師という映画の主にエンディングで使用されたテーマ曲」と説明し、番組を進行した。

 

 羽生は「本当にあの曲に助けられたというか……。あのプログラムに助けられた」と語った。萬斎は「採点競技は点を取る意識でやらざるを得ない」とフォローした。

 

 SEIMEIは、羽生が2018年平昌五輪のフリーで使用した曲だ。そして14年のソチ大会に続き、五輪連覇を達成した。しかし、連覇を達成したから“あの曲、あのプログラムに助けられた”と言ったわけではない。そんな直接的な意味ではないはずだ。おそらく、アスリートと表現者の狭間の苦しみから助けられた、という意味だったのではないか。それは萬斎のフォローからもくみ取れた。

 

 時計の針を2015年に戻そう。この年末、萬斎と羽生はテレビ番組で対談した。演技の際、意識をどこに持っていくのか、と議論になり萬斎はこう述べた。

「空間の四方に対して気を収めていく。たとえばここの4本柱に気を込めていく。全部に対してアプローチをする。それはみんなの意識を自分に向けさせる挨拶でもある」

 

 「意識は会場全体に」

 

 羽生はアスリートとして答えた。

「僕らはジャッジに意識を持っていかないといけない。結構、ジャッジばっかりになっちゃうんです」

 その後、表現者としての葛藤を見せた。

「でも萬斎さんがおっしゃったように、360度にお客さんはいるんです。お客さんの反応は点数に関係ないかもしれないけど、表現者として考えるのであれば絶対に魅せなくちゃいけないですよね……」

 

 萬斎は「その人(ジャッジ)だけに対する、という意識ではなくて」と前置きし、続けた。

「効率よく、どうしていくか。自分のため、ジャッジのため、お客さんのため。場を支配するためには、場を味方につける。その意味でいうと自分の意識は会場全体に持っていきたい」

 

 萬斎の口調からは、羽生に対する期待が込められていた。ジャッジも会場の一部ではないか、と言わんばかりに。

 

 時計の針を14日のラジオ後編に合わせよう。羽生はラジオで語った。

「ジャンプを表現の一部にすると強く考えるようになったプログラムがSEIMEIでした」。そして「意識改革として、“ジャンプ、スコア”みたいなところから解き放たれた感じはありました」と羽生。

 

 notte stellata 2025初日公演後、萬斎は目を細めた。

「(10年前に)僕と喋っている時、もちろん彼に内包されていたものだけど、まだ言語化されていなかった。多少の僕の言葉と、経験を重ねて段々と殻が破れ、芽が出て、まさしく今、花開いている。我々は年老いていくわけですが、次なる人々が意思を継いでくださる。とてもうれしく思いますね」

 晴明役を演じた萬斎が、10年前に説いた場を支配する重要性。羽生はこの術をSEIMEIで身に付けた。ふたりは、表現者同士として再会を果たしたのだった。

 

(文/大木雄貴)

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