Jリーグが国立競技場で試合を開催する意味

facebook icon twitter icon

 日本サッカーの聖地と言えば、国立競技場である。

 

 筆者は4月11日のFC東京-柏レイソル戦、13日のFC町田ゼルビア-浦和レッズ戦をともに取材で訪れたが、いずれも雨模様ながら11日は4万3813人、13日は4万4363人と多くの観衆を集めた。Jリーグが無料招待するなどプロモーションに力を入れていることも背景にはあるだろう。

 

 2年前の2023年シーズン、国立競技場で8試合が開催された。1試合平均5万人以上を呼び込んだ成功もあってか昨年から「THE国立DAY」と銘打ち、ロゴもつくられた。Jリーグは公式サイトにて<新規のお客様や、久しぶりにJリーグを観戦される方が数多く存在し、各クラブのホームスタジアム開催の来場にも一定数繋がっています。特に、国立競技場での開催試合で新規来場いただいたお客様は、その後、約3割程度が再来場していることが分かっています>と記している。つまり国立開催がかつてのファンのみならず、新規開拓にもかなりの効果をもたらしているというわけだ。

 

 昨季は13試合(J1=12試合、J2=1試合)を開催して、65万4165人を動員した。1試合平均にして約5万人という数字だ。FC東京5試合、FC町田ゼルビア4試合、東京ヴェルディ1試合と首都東京をホームに置く3クラブのカードが中心ではあるものの、国立でのサッカー観戦にニーズがあることは確か。今季も計10試合(J1=9試合、J2=1試合)が予定されている。

 

 FC東京-柏レイソル戦では選手入場時に花火が上がるなど、特別演出も見どころではある。ただ最も大切なのは言うまでもなく、ピッチ上の戦い。いかに来場者のハートをつかめるか、だ。

 

 思い起こせば1993年5月15日、チアホーンが鳴り響く超満員の旧国立競技場でヴェルディ川崎と横浜マリノスの黄金カードでJリーグは開幕した。両チームが真っ向からぶつかり合い、ピッチで生み出される熱は観る者にも伝わっていた。Jリーグと国立競技場の物語は、ここから始まっている。

 

 マリノスの10番、木村和司は筆者のインタビューでのちにこう語っている。

「あんなにお客さんが入るなんて、つい数年前までは考えられんことやったから感慨深いものはあったよ。みんなよう走っとったな。ボールは全然、外に出んし。今見ても、あのときのサッカーは面白かったと思うよ」

 

 これからJリーグを世に広めていくという使命感、責任感が両チームのプレーにあらわれていた。ヘニー・マイヤーの豪快なミドルシュートでヴェルディが先制しながらも、34歳の木村が2得点に絡む活躍で逆転勝利を挙げた。井原正巳からのフィードを、珍しくヘディングで水沼貴史に送った意外性のあるプレーが、ラモン・ディアスの決勝点を呼び込んだ。

 

 勝利にこだわるとともに、観客の目をとにかく意識する“魅せる人”でもある。

「サッカーは楽しいもんよ。自分がまず楽しまんと、まわりも、お客さんも楽しめんからの」

 

 自分が楽しんでこそ、人を楽しませることができる――。ジーコ、ラモス瑠偉、ストイコビッチらのプレーを見てもそうだったように、中村俊輔、小野伸二、遠藤保仁、中村憲剛らが受け継いだように“魅了なくしてJリーグなし”の伝統を築いてきて今がある。

 

 レッズとゼルビアの一戦では、スタンドがドッと沸いたシーンがあった。

 

 西川周作がまさに矢のような低い弾道のフィードを、トップ下の渡邊凌磨に送る。その渡邊のフリックからボールを受け取った松尾佑介がスピードに乗ってゴールを決めた。フィードからゴールまでわずか8秒。技術の詰まった連係美が、観る者をうならせた。ゴール裏を振り返って笑顔でガッツポーズを繰り出した西川が、誰よりも楽しそうだったことも印象的であった。

 

 このようなプレーがリピーターを増やし、新たなJリーグファン、サッカーファンを増やしていくに違いない。

 

 国立開催でのJリーグ。ファンの拡大もさることながら、人々を魅了する原点を噛みしめる目的もあるような気がしている。

facebook icon twitter icon
Back to TOP TOP