三浦知良(現横浜FC)や武田修宏ら名だたるストライカーが足跡を残してきた名門ヴェルディに、新たな輝きを放つ選手が出てきた。阿部拓馬、23歳――。今季は既に10ゴールをあげ、現在J2得点ランキングではトップから2ゴール差の3位の位置で、得点王争いを演じている。
 ここまでの道のりは決して華やかだったとは言い難い。法政大学時代は3年の途中まで主力ではないBチームでプレー。大学選抜や世代別代表の経験はない。ヴェルディに加入した昨季は途中からの出場機会が多く、20試合で3得点だった。しかも昨年の11月には左足の甲を痛め、最初は歩くこともままならなかった。これが影響して、ついには今季の開幕戦はベンチ入りすることもできなかった。

「これだけ長い間サッカーから離れたのは初めてでした」
 今季初出場は4月24日の愛媛FC戦、後半開始から出場した。しかし、結果は出なかった。スタメンはおろか試合に出たり、出なかったりの状況が続いた。
「コンディションもまだまだだという感じだったので。得点は早く欲しかったですけどね。徐々に調子を上げていこうとは思っていました」

 転機が訪れたのは6月19日のカターレ富山戦だ。今季初先発のチャンスを与えられると、2ゴールを奪う活躍を見せる。「初めて先発で使ってもらって、結果を残せたので嬉しかったです」。強烈なアピールに成功した阿部はこの試合以降、何かに目覚めたかのようにゴールを量産する。以降、この富山戦を含め14試合すべてに先発出場し、10得点。今ではチームに欠かせない存在となりつつある。

 ゴール量産の要因

 何が23歳を変えたのか。本人はその理由を謙虚にこう語る。
「川勝監督が試合の最初から使ってくれていますから。その分、チャンスも多いので、これが一番の理由だと思います」

 もちろん、飛躍の背景には技術的な裏づけがある。まず挙げられるのが、ポジショニングのうまさだ。阿部の持ち味は、前を向いてからの積極的な仕掛けにある。だが、身長171cmと決して体は大きくない。屈強なDFと勝負するには、ボールを受ける前のポジションどりが肝になる。
「相手と相手の間に位置をとると、どちらがマークに付くかという迷いが(相手に)生じるんです。常にそういうポジションをとっていれば、パスを受けた時にフリーというか、前を向ける。なので、相手との距離感は常に計っていますね」

 さらに阿部はこんなところまで気を配っている。
「ポジショニングの場所プラス、体重をどうかけているか。ここにもこだわっています。前にかけているのか、後ろにかけているのかによって大きく動き方が変わってきます。一歩が変わるんですよね。この一歩目をもっと研ぎ澄ませたい」

 川勝良一監督は、昨季までとの大きな違いを口にする。
「フィジカルが強くなったことと、ゴールへの『強引さ』が出てきたね」
 この「強引さ」を象徴するのが先述した富山戦での2点目だ。ゴールから約35mの位置で思い切って右足を振り抜き、ネットに突き刺した。
「今までああいうところからのシュートは打ってなかったからね」
 指揮官はこのゴールに阿部の成長を感じたという。

 本人にもこの「強引なゴール」を振り返ってもらった。
「遠目からでも打てるチャンスがあったら打とうとはずっと思っていました。それが出せたシーンでしたね」
 しかし、うかれることなく、こう付け加えた。
「でも、まだまだ打っている本数は少ないので、もっと狙いたいですね」
 突然のブレイクにも自らを見失わない。それも好調をキープしている要因だろう。

 思えば川勝と出会っていなければ、今の阿部はなかったかもしれない。
 最初の出会いは大学1年生の時の時にさかのぼる。当時、川勝は法大でコーチをしていた。しかし、途中、川勝がアビスパ福岡の監督に就任したこともあり、大学3年の途中まで、あまり接点はなかった。ようやく川勝監督から言葉をかけられたのは、主力のAチームに入った頃だ。

「お前、試合出てないだろ。判断が遅いんだよ!」
 パス練習でうまくプレーできなかったことを、鋭く指摘された。
「あの時のことはよく覚えていますね。すごく恐かったです(笑)」
 それまで自身のプレーに対して厳しく指導されたことはあまりなかった阿部にとって、その一言は衝撃的だった。
 
 阿部はさらにこう語る。
「川勝さんと出会って一番変わったのは、練習に対する意識ですね。常に100%で練習に臨む大切さを教わりました。そのおかげですごく厳しい環境でもプレーできるようになったと思います」
 川勝の指導もあり、力をつけた阿部は徐々に出場機会を増やし、4年生の時の関東大学リーグでは負ければ2部降格の最終節で決勝点を決め、残留に導いた。その後、ヴェルディの監督に就任することになった川勝と同じくして、阿部も緑のユニホームに袖を通した。プロになったとはいえ、指揮官の厳しさは変わらない。
「今でもすごく怒られますよ(笑)。でも自分ができてないから怒られるのであって。指摘されたことはしっかり受け止めて、それを自分で考えて成長につなげていくことが大事ですね」

 日本にいそうでいないタイプ

 大学時代からの恩師は、阿部の長所を一言でこう表現する。
「接近戦で強い」
 もう少し具体的に訊いてみた。
「日本にはうまい選手はいるが、速いとか強いといった“タフなFW”が少ない。その点で阿部は、試合中もサイドへ逃げず、中央の密集したところで長い時間プレーできる。こんなFWは日本にいそうでいない」

「接近戦に強い」を表すプレーは、昨季のプロ初ゴールだ。2010年6月12日の富山戦、前半12分、PA手前で阿部は前に3人、後ろに1人の敵がいる状況でパスを受ける。並の選手であれば、サイドへ展開したくなる場面だ。ところが阿部はバランスを崩しながらもこの密集を抜け出し、最後は飛び出してきたGKの頭上を抜くループ気味のシュートを決めた。
「そういうところから、仕掛けたりするのは好きなプレーでもあります。(相手が)近ければ近いほどいいという場面もある。密集の中での駆け引きとかは、楽しみながらやっていますね」

 川勝は今季、阿部に20得点のノルマを課している。それだけ教え子に対する期待は大きい。
「子供の頃から得点するとすごく嬉しかった。今でも点を取ると他のプレーにもメンタル的にもいい影響が出てくる。そういう意味でも今季の残り試合でゴールは取れるだけ取りたいです」
 ポジショニングがうまく、接近戦で勝負でき、かつ、いい意味での強引さもある――まさに新しいタイプのストライカー。阿部が20得点のハードルを越えた時、偉大なる先輩たちと同じスターへの道を歩み始めるに違いない。

(後編につづく)

阿部拓馬(あべ・たくま)プロフィール>
1987年12月5日、東京都生まれ。2人の兄の影響でサッカーを始め、横河武蔵野FCユース、法政大学を経て、2010年から東京ヴェルディに加入。現在、監督を務める川勝良一には大学時代から指導を受ける。1年目はリーグ戦に20試合出場し3得点。迎えた今シーズンはケガの影響で開幕戦には間に合わなかったが、6月に初先発を果たすと、そこから14試合で10ゴールと活躍。クラブのJ1昇格のキーマンとして期待されている。ゴールへ仕掛けていく積極性と、思い切りのいいシュートが武器。身長171cm、体重68kg。背番号19。

(鈴木友多)

☆プレゼント☆
阿部選手の直筆サイン色紙を1名様にプレゼント致します。ご希望の方はより、本文の最初に「阿部拓馬選手のサイン色紙希望」と明記の上、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、このコーナーへの感想や取り上げて欲しい選手などがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選は発表をもってかえさせていただきます。たくさんのご応募お待ちしております。
◎バックナンバーはこちらから