日常的に“下克上”起きるJは世界屈指の「面白さ」

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 何をもって「面白い」というかは人によって意見が分かれるのがサッカーというもの。それは重々承知しているが、しかし、今年のJリーグは面白い。

 

 第10節ではC大阪対鹿島が凄かった。ホームのセレッソが攻める。ゴールが決まる。そのたび、オフサイドで取り消される。その数、実に5回。後半アディショナルタイムにはPKまでストップされる。万事休すか。そうではなかった。57分、スタジアムを狂乱の渦に巻き込む決勝ゴール。

 

 第12節の横浜M対清水戦も途轍もなかった。今季絶不調にあえぐマリノスが、この日は後半の早い段階で2点のリードを奪う。それまでの内容から見ても、久しぶりの勝ち点3はほぼ確実に思われた。

 

 ところが、ここから清水が怒涛の反撃を見せる。後半9分、FKを直接決めて1点差に迫ると、26分には相手オウンゴールでついに同点に。そして37分、単身持ち込んだ乾が強烈なミドルをサイドネットに突き刺して逆転に成功した。清水ファンの友人は「もう一生忘れない」と感激しきりだったが、確かに、クラブ史上に残るであろう、10年に一度、いや、それ以上に稀有な逆転劇だった。

 

 ご存じの通り、今季の清水はJ2からの昇格組である。そんなチームが、敵地で、ACLに出場している優勝候補相手に2点差をひっくり返す。これは、世界にプロリーグは数あれど、Jリーグ以外でなかなか起こり得ない事象と言っていい。

 

 なぜこんなことが起きるのか。欧州ほどには予算の格差が大きくない、というのがまず挙げられる理由の一つだろうが、個人的には、タイトルに対する距離感も関係しているのでは、と思っている。

 

 欧州の場合、優勝を目指すクラブというのははっきりと限られている。下位のクラブにとって、リーグの頂点に立つという目標は目指すべき選択肢の中からほぼ完全に除外されている。仮に「目指す」と公言するクラブが現れようものなら、盛大に嘲笑されるのが関の山である。

 

 だが、明治維新からごく短期間で世界の列強の一つにまでのし上がり、一度は叩きのめされても再び世界屈指の経済大国にまでなった歴史がそうさせるのか、日本人は届きそうもない頂点を目指すことに、不思議なくらいアレルギー反応が少ない(もちろん、存在はするのだが)。それでなければ、まだ一度もW杯でベスト8に入ったことがない時点で、選手や監督が優勝を目指すなどと口にできるはずもない。

 

 少なくとも、清水の選手たちはマリノスを相手に勝ちにいっていた。守って守って勝ち点をかすめ取ろうとするのではなく、真っ向から撃ち合って倒そうとしていた。下克上という言葉が普通に使われる国ならでは、なのかもしれない。

 

 大変なのは、挑戦を受ける側である。欧州ほどの格差は存在しないうえに、どのチームもあわよくば金星をと狙ってくる。欧州で、CLに出場し、かつ準々決勝まで進出しているチームがリーグ戦で最下位に転落しようものなら途轍もない騒ぎになるだろうが、いまのJリーグでは、それが現実のものとなっている。

 

 そんなリーグが、退屈であるはずがない。

 

 長いこと、わたしにとって欧州のサッカー観戦は娯楽で、Jリーグ観戦は仕事だった。だが、25年4月のわたしは、ボルシアMGの試合を見るより、レイソルの試合を見る方が楽しくなってきている。

 

<この原稿は25年4月24日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>

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