福井ミラクルエレファンツとの地区チャンピオンシップを2連勝で制した石川ミリオンスターズは、3年連続で北陸地区チャンピオンとしてリーグチャンピオンシップに進出しました。今回の相手は地区4連覇を狙った群馬ダイヤモンドペガサスを破って初めてリーグチャンピオンシップ進出を果たした新潟アルビレックスBCです。新潟との後期の対戦成績は0勝4敗。しかもリーグトップのチーム防御率(2.96)を誇る投手陣をもつ新潟は後期、6連勝を飾っており、その余勢を駆って群馬に2連勝してリーグチャンピオンシップへと駆け上がってきました。打撃成績などを見ても、新潟が強いことは明らか。しかし、短期決戦は長いリーグ戦とは違います。ですから、決して楽ではないものの、自分たちがすべきことをやれば、必ずは勝機は見えてくるという自信をもって、まずは新潟での2連戦に臨みました。
 8日、第1戦が新潟HARD OFF ECO スタジアムで行なわれました。新潟の先発は正田樹。言わずと知れた元NPBのピッチャーです。対する石川の先発はモタ・ヘルナンデス(シカゴホワイトソックスアカデミー)……のはずだったのですが、ちょっとした手違いで南和彰(神港学園高−福井工業大−巨人−カルガリーパイパース)が先発というかたちとなり、打者1人だけでモタと交代しました。大方の予想が第1戦の先発は南だったでしょうから、不思議に思った方もたくさんいたでしょう。これはトリックでも何でもなく、ただの手違い。もともと第1戦はモタの先発で考えていたのです。

 なぜ、初戦を南ではなく、モタを先発に起用したのかといえば、ビジターでの2試合を連勝するために考えた末の策だったのです。リーグトップの本塁打数(41本)を誇る新潟のバッティングは非常に力強いため、速球派のピッチャーではないとなかなか抑えることができません。そこで南は当然として、もう一人の先発はモタにすることにしたのです。チーム一の勝ち頭の南は安定しており、どこでも大丈夫ですから、モタを優先に考えたわけです。そこで参考にしたのが8月15日、エコスタでの新潟戦。モタは負けはしたものの7回5安打2失点と好投しました。同じ球場であれば、モタ自身も気持ちよく投げることができるだろう、という判断からエコスタでの初戦に先発させることにしたのです。

 見てもらえば一目瞭然ですが、150キロ以上を誇るモタの直球は威力十分。きちんとストライクを投げることができれば、十分に試合をつくってくれるだろうと期待していました。ところが、毎回のように四死球を出すという乱調気味のピッチングが続きました。4回までは力でねじ伏せ、なんとか無失点に抑えていましたが、5回はせっかく2者連続の三振で2死無走者としながら、そこから2失点を喫してしまいました。

 しかも、記録上はエラーはつかなかったものの、どれも石川のミスが絡んでのものでした。2死から相手の9番打者がしてきたバントもモタがスムーズに捕球して一塁へ投げていればアウトになっていた可能性は十分にありましたし、次の1番打者のタイムリー三塁打は右翼手がトンネルしたもの。さらに2死三塁からモタの暴投で2点目を献上……。6回も3点を奪われましたが、これも四球と守備のミス絡んでの失点だったのです。結局、初戦は1−7という結果に終わりました。7安打の新潟に対し、石川は9安打を放ちました。にもかかわらず、大差での敗戦。要因はやはり四球と守備のエラーということは明らかでした。

「負けたのは仕方がない。いくら悔やんでも返ってはこないのだから、明日は気持ちを切り替えていこう。自分たちができることをきっちりとやっていこう」
 試合後、私は選手たちにそう言いました。そして翌日、「今日は自分たちの力を全て出し切ろう!」と言って選手たちをグラウンドに送り出したのです。先述したように、この試合の先発は南。ですから、こちらが1点でも2点でも取れば、あとは南に任せることができます。そこでこの試合のポイントはいかに早く先取点を取ることができるか、でした。

 すると初回、欲しかった先取点がいきなり石川に入りました。新潟の先発・阿部拳斗(中越高−新潟証券)はいい真っ直ぐを投げるという印象がありましたが、かなり緊張していたことはベンチから見ていても手に取るようにわかりました。それを石川の打線は見逃しませんでした。先頭打者の戸田衛(南部高−阪南大)が四球で出塁すると、2番・楠本大樹(関西創価高−創価大−佐川印刷)が送りバントを決め、3番・謝敷正吾(大阪桐蔭高−明治大)のタイムリーで1点を先制と、非常にいいかたちで先取点を挙げることができました。さらに南がその裏を3人でピシャリと抑えました。これこそが、今季の石川にいい流れを引き寄せてきた勝利のかたちであり、この試合もこの初回の攻防戦が最大のポイントだったように思います。この試合、守備に目立ったミスはなく、南は2安打に抑えて完封。打線もチャンスをうまくモノにし、11安打6得点と快勝することができました。

 もちろん、大事な初戦を取りたいとは思っていましたが、第2戦に勝てたことで、気分よく石川まで帰ることができ、練習にもスムーズに入ることができたのは大きかったですね。そして14日からはホームゲームが続きますから、いい雰囲気で臨むことができるでしょう。とはいえ、新潟は一度も頂点に立ったことがないからこそ、“優勝”に飢えているチーム。ですから、勝利への強い執念があります。ホームだからといって隙を見せれば、すぐに足元をすくわれるでしょう。石川もより一層、気を引き締めていかなければなりません。

 第3戦以降の試合展開としては、第1、2戦と連打がほとんど出ていませんから、どこの打順からでも連打が出てくると勢いに乗れるのではないかと思っています。今季のチームは便乗するのがうまい選手ばかりですから、誰か一人でも当たりが出てくると、次々といくことができるのですが……。そのためには全員が最後まで集中し、強い気持ちをもって試合に臨むこと。リーグ戦では負け越しているものの、決して実力的に負けているとは思っていません。とにかくミスなく投げて、捕って、打つ。これができれば、自ずと勝機は見えてくるはず。昨季に続いての連覇を目指して、石川の野球をしたいと思います。


森慎二(もり・しんじ)プロフィール>:石川ミリオンスターズ監督
1974年9月12日、山口県出身、岩国工高卒業後、新日鉄光、新日鉄君津を経て、1997年にドラフト2位で西武に入団。途中、先発からリリーバーに転向し、2000年にはクローザーとして23セーブを挙げる。貴重なセットアッパーとしてチームを支えた02、03年には最優秀中継ぎ投手に輝いた。05年オフ、ポスティングシステムによりタンパベイ・デビルレイズ(現レイズ)に移籍。2年間のメジャー契約を結ぶも、オープン戦初登板で右肩を脱臼。07年、球団から契約を解除されたものの、復帰を目指してリハビリを続けてきた。09年より石川ミリオンスターズのプレーイングコーチに就任。10年からは金森栄治前監督の後を引き継ぎ、2代目監督としてチームの指揮を執っている。
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