時間と空間という「間」を支配できる選手が一流 ~福田正博氏インタビュー~

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 Jリーグ初の日本人得点王に輝き、現在も“ミスターレッズ”と呼ばれ多くのファンやサポーターに愛されている福田正博さん。きたるワールドカップ(W杯)に向けての課題や自らのサッカー人生について、当HP編集長・二宮清純と語り合う。

二宮清純: 3月20日に行われた北中米W杯アジア最終予選で、日本はバーレーンに勝利し、8大会連続8度目の本戦出場を決めました。日本史上最速の予選突破になったわけですが、ここまでの戦いぶりはいかがですか。

福田正博: 圧倒的に強いという印象です。一方で、スムーズ過ぎたことに一抹の不安を覚えています。というのもW杯には、予選で苦戦した国がそこで新たな学びや緊張感を得て、本戦で活躍するという面がある。だから個人的には、1度たたかれたほうがいいと思っているんです。その意味では強化試合を含めてどういったスケジューリングをするかが、本戦の活躍を占う1つのポイントになると思います。

 

二宮: サッカーの監督を海外ではヘッドコーチと呼びますが、森保一監督は以前にも増して、マネジャーの色を濃くしている印象があります。

福田: それでいいと思います。森保監督の最大の長所は、そのマネジメント能力ですから。戦術は、それに長けているスタッフを入れればいい。本来監督に求められるのは、そうしたスタッフを上手にまとめていくことです。残念ながら、日本ではこの点を理解していない人が多い。国内で「なぜフィジカルトレーニングを監督が指導しないんだ」なんていう批判は出てこない。フィジカルコーチやメンタルコーチとの分業は認めていても、攻撃や守備については、なぜか監督が中心となって指導すべきと捉えられているんです。

 

二宮: 確かに。分業で任せるべきところは任せ、それを統括するのが監督の仕事というわけですね。現在の日本代表の戦術ですが、3バックの左右に三笘薫選手や堂安律選手など、攻撃的なウイングバックを配しています。この「超攻撃的」ともいえるウイングバックシステムが、相手には脅威になっているようですね。

福田: 今は前線にたくさんのタレントがいるので、そのタレントを1人でも多く一緒に使えるようにしたほうがいい。その点、今のシステムは理にかなっていると思います。結局、システムの話というよりも、どういうタレントを置くかによって戦い方を変えられるわけです。今は5人の交代ができるようになったので、なおさらです。ゲームチェンジャーという言葉が出てくるくらい、途中で流れを変えられるようになりました。

 

二宮: いつ、どこで、誰を入れるかというカードの切り方が、大事になってくるわけですね。

福田: はい。前回のW杯(2022年、カタール)に関しては、三笘選手がその役割を担いました。今回はどうなるか分かりませんが、ベンチにもたくさんのタレントを置けるほど、選手層が厚くなってきた。今の日本は、世界と戦えるステージに立っていると思います。

 

二宮: 日本は前回、決勝トーナメント1回戦でクロアチアにPK戦で敗れ、初の8強入りを逃しました。その際、蹴る順番を選手たちが決めた。失敗すると批判が選手に向くので、今後は自分が決めると森保監督は方針を変えたようですね。

福田: そもそもPK戦は、誰かが失敗しなければ終わらないという、極めて過酷なルールです。死に物狂いで戦った選手や監督、誰かが批判されないと終わらない試合なんて本来はおかしいんですよ。

 

二宮: でも、何らかの方法で決着はつけなきゃいけない。

福田: もうね、両チームから5人出てきて同時に「じゃんけん」ですよ(笑)。

 

二宮: それならうまいも下手も、誰が選んだかも関係ない(笑)。ある意味フェアですね。

福田: まあ、じゃんけんは言い過ぎかもしれませんが、蹴る側も、守る側も、そして選ぶ側も、みんな責任を負う「覚悟」を持って臨んでいることを知ってほしい。スーパースターのロベルト・バッジョ選手(イタリア)が1994年のアメリカ大会決勝でPKを外した際、「PKを外すことができるのは、PKを蹴る勇気を持った者だけだ」と言いましたが、この言葉に尽きると思います。

 

二宮: 5人の交代ができるようになったことで、PK戦の難しさも増した気がします。

福田: おっしゃるとおりです。以前は3人の交代だったので、PKを蹴るであろう主力選手がピッチに残っていることが多かった。それが5人になったことで、主力を代えるという選択肢も出てきました。もちろん、はじめからPK戦のことは考えないでしょうが、延長戦のカードの切り方は難しくなりますね。

 

二宮: PKでは、ゴールキーパー(GK)の存在も重要です。現在の守護神である鈴木彩艶選手の評価は?

福田: 今までの日本のGKとはスケールが違います。190cmを超える身長はもちろん、身体能力にも秀でている。欧州のトップリーグ(セリエA)でスタメンを張る日本人GKが出てくるなんて、私の現役時代には想像もつきませんでした。「格下のチームが格上のチームに勝つために不可欠な条件は、GKの活躍と少しの運」と言われます。まさに彼は、日本がW杯で高みを目指す上で重要なキーマンになるでしょう。

 

二宮: 福田さんのフォワード(FW)目線からしても、やはり鈴木選手のようなGKは嫌ですか。

福田: 嫌ですね。フィジカルが強い上に、臆せず前に出てきますから。かつて鈴木選手は、前に出ることでミスを招き、批判されることがありました。でも私から言わせれば、前に出る勇気や自信を持つ鈴木選手が、「待つ」という判断をできるようになったことがすごい。そもそも待つことしかできないGKは、簡単に前には出られません。

 

(詳しいインタビューは5月30日発売の『第三文明』2025年7月号をぜひご覧ください)

 

 

福田正博(ふくだ・まさひろ)プロフィール>

1966年12月27日、神奈川県横浜市出身。小学5年の時にサッカーを始める。相模工業大学附属高校(現・湘南工科大学附属高校)から中央大学へ進学。1年次からレギュラーとして活躍し、秋の関東大学サッカーリーグ戦では新人王を獲得した。89年、三菱重工業サッカー部(現・浦和レッドダイヤモンズ)に入団。同年の日本サッカーリーグ2部で得点王となり、1部昇格に貢献した。Jリーグ開幕後は、95年に50試合で32ゴールを挙げ、日本人初の得点王に輝く。2002年の現役引退まで浦和一筋だったことから、“ミスターレッズ”と呼ばれる。日本代表には90年から選ばれ、92年のアジアカップで初優勝。93年にはワールドカップ・アメリカ大会予選のアジア地区最終予選における“ドーハの悲劇”を経験した。現在は解説者としてメディアで活躍する傍ら、サッカースクールなど幅広い普及活動にも取り組んでいる。J1通算216試合、91得点。国際Aマッチ通算45試合、9得点。

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株式会社第三文明社

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月刊誌「第三文明」で2010年1月号より好評連載中の「対論×勝利学」は、 二宮清純が一流アスリートや指導者などを迎え、勝利への戦略や戦術について迫るものです。 現場の第一線で活躍する人々をゲストに招くこともあります。 当コーナーでは最新号の発売に先立ち、インタビューの中の“とっておきの話”をご紹介いたします。

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