『ROUND AFTER ROUND.12』貫くメッセージと示したプライド

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 日本発のプロダンスリーグ「D.LEAGUE」において、年1回の特別なラウンドがCYPHER ROUNDである。通常ラウンドと異なるのが、1チーム8人によるショーケースを1対1の対戦形式で行うのではなく、各チーム代表の8人が1人のSOLO(3回)、2人組のDUOと3人組のTRIO(1回)の計5回に分かれて戦うこと。今季、この特殊なラウンドを制したのが、リーグ参画2季目のDYM MESSENGERS(ディーワイエム メッセンジャーズ)だ。

 

 各CYPHERは「スキル」「クリエイション」「完成度」と「臨場感とインパクト」という視点から5人のジャッジが各10点満点で評価する。そのポイントにオーディエンスジャッジ(得票数に応じたポイントを付与)を加え、1CYPHERで最高60点満点。5回の合計得点で順位が決まる。 MESSENGERSの合計スコアは261点。5回中4回のCYPHERでトップを獲り、2位の Valuence INFINITIES(バリュエンス インフィニティーズ) に20点差をつける圧勝劇だった。

 

 神奈川・横浜BUNTAIで行われたROUND.12から9日後、MESSENGERSのYu-mah(ユーマ)とHANAに話を聞いた。

「僕らは即興で踊ることに長けているチーム。D.LEAGUE以外の舞台だとカテゴリーを絞られたり、コアなダンスシーンで活躍している。D.LEAGUEは一般の方たちが見ていることもあり、踊るダンサーの見せ方、技法が違う。昨年はナメていたわけではないのですが、“いつも通り”の自分たちで勝負してしまったところで結果に繋がらなかった。自分たちの強みをどうやったら出せるかにフォーカスを当て、調整してきました。結果に繋がったことが自信になった面もあれば、“当然かな”と思う気持ちもあります」(Yu-mah)

「バトルをメイン、土俵にしてきたメンバーが集まっている中、去年の結果が振るわなかったのが悔しかった。だからこそ今回は仕上げてきました。結果として納得。“そりゃそうだよな”という気持ちもあります」(HANA)

 

 2人から「当然」、「納得」という言葉が出てくるのは、それだけCYPHERというスタイルに自信を持っているからだろう。昨季は6位。チャンピオンシップポイント(CSP)を獲得できる順位ではあったものの、自分たちの“得意分野で敗れた”ことは忸怩たる思いがあったはずだ。1st CYPHERはリーダーのFOOLが5位に付け、2nd CYPHERでAITOとKeitrickのDUOが高得点(56)をマークして流れを引き寄せた。3rd CYPHER(SOLO)のTakuyaが55点で、MESSENGERSが暫定トップに立った。

 

 場内の反応から4th CYPHER(TRIO)の出場を控えていたYu-mahも順位の変動に気付いたという。

「長くダンスをやってきて、一番プレッシャーを感じたかもしれません。自分だけの問題じゃないというか」

 TRIOを組むYoshiki、TAKUTOとは声を掛け合ったわけではない。「個々に集中し、調整していました」。冒頭で3人の静止からスタートし、Yoshiki、TAKUTO、Yu-mahの順に動き出していった。スタイリッシュで息の合ったロッキンで観客を魅了した。MESSENGERSはTRIOでもトップの得点(53)をマーク。この結果、MESSENGERSが2位との差を13点に広げた。

 

 モニターで4th CYPHERの様子を見ていたというHANAは、当時の心境をこう振り返る。
「大将戦のような立ち位置。プレッシャーにも感じましたが、ここまで勝ってくれていたので優勝は見えていた。メンバーの結果が出ていたことがうれしかった。自分もトップを獲るという気持ちよりは、いい踊りをして終わりたいと思っていました」

 5th CYPHER(SOLO)は各チームのトリを担う。 SEGA SAMMY LUX(セガサミー ルクス)のCanDoo、LIFULL ALT-RHYTHM(ライフル アルトリズム)のcalin、KOSÉ 8ROCKS(コーセーエイトロックス)のISSEI、CyberAgent Legit(サイバーエージェント レジット)のena、KADOKAWA DREAMS(カドカワ ドリームズ)の颯希らチームならびにリーグの顔とも言えるような面子が揃う中、HANAは得意のロッキンでトップの54点を叩き出した。最後まで突っ走ったMESSENGERSの圧勝で、年1度限りのCYPHERは幕を閉じた。


 Yu-mahは「自分は勝ち負けに運が半分以上あると思っていて、それを掴むかどうか。曲の変わり目に回ってくるかどうかも運。それがなかったら負けていたわけではないですが、あったからこそ勝てた部分もある」と勝因を振り返った。HANAがCYPHERの魅力を「即興性。何に囚われることなく瞬間的な音楽で自由に踊れること。その瞬間、自分でも何が起こるかわからない。ゾーンに入った時は記憶がない。ただ、その時に新しい自分と出会える。それが私は楽しいんです」と述べたように、4月29日の横浜でのステージは、楽しんだもの勝ち――。そうも思わせてくれたラウンドだった。

 

 MESSENGERSは、メンバーへのリスペクトも感じられる。同じロッキンをメインジャンルとし、国内シーンを牽引してきた2人にそれぞれの凄さを語ってもらった。まずはHANA。「(Yu-mahは)TAKUTOもYoshikiも、私も影響受けて育ってきました。その関係がずっと続いている。いつも一緒にいる中、“まだ届かないか”と悔しくなれる。憧れであり、常に前をいっている存在です」。続いてYu-mahは「ロッキンの今の時代を一番引っ張っている女性ダンサー。そこは誰もが認めるところ。なおかつMESSENGERSでの抽象的な踊りも、HANAは捉えて自分のモノにできる。まだまだ変われる」と称えた。個性が際立つメンバーが揃う。「シンプルに言うと一筋縄ではいかない。それがいいところ。このメンバーと踊れていることが幸せ」とHANA。Yu-mahが「ラウンドが終わってから、毎回のようにみんなでDJをやる。仲が良過ぎるくらいです」と言うほどチーム仲は良好だ。

 

 加えて音楽をコアにしているチームだ。もちろんダンスと音楽は切っても切れない関係にある。中でもMESSENGERSのスタイルは、音楽との共鳴、共存、共生していると言っていいかもしれない。Takuyaは「みんな音楽が大好きで、いつも音楽を聴きながら、遊んで踊っている」と口にしていた。ROUND.8終了後の囲み取材では、Yasuminが「音楽とはどういう存在ですか?」と問われ、こう答えた。
「私自身、音楽がないと踊らない。音楽を聴き、揺れて、そこから自分の音に繋がっていく。それがダンス習い始めていろいろな踊りを覚えてからも、自然な流れになっています」

 

 ステージ上ではクールで、少し“不良っぽさ”を纏うMESSENGERSだが、チームの公式Youtubeなどで見せる表情は柔らかく、そのギャップが垣間見える。「クールな部分は担保しつつも、メンバーは面白い人間ばかりなので、ファンになってくれたらうれしいですし、もっと知って欲しい」とHANA。Yu-mahは「シャイで口ベタなところも愛して欲しいです」と笑顔で話した。

 

 MESSENGERSはROUND.13でチャンピオンシップ(CS)出場の可能性が潰えた。それでも音楽とダンスを媒介に、伝えるメッセージがある――。Yu-mahはチームの魅力を「ナマモノ、本番の爆発力」と言い、こう続けた。
「ダンスは準備や鍛錬をしていくものでありますが、心から何かが湧き出てくるものでもある。それがダンスの一番の魅力で、それを伝えるために僕らはやっている。その強みは勝とうが負けようが持ち続けています」

 

 ディレクターのTAKUYAはD.LEAGUE参画初年度(23-24)の開幕前、「D.LEAGUEの価値観やダンスの見方など、いろいろ更新できると思います。僕らのクールなストリートスタイルを楽しんでもらいたい。僕らからのダンスのメッセージを楽しみにしていてください」と所信表明をしていた。リーグで異彩を放ち続けるMESSENGERSのコトバ。時に強烈で、時に繊細だ。


(文・写真/杉浦泰介)

 

>>ROUND.12のショーケース

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