2011年のプロ野球もいよいよ最終局面に突入した。29日からはセ・リーグ、パ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)が同時に開幕。日本シリーズまで1球たりとも目の離せない試合が続きそうだ。今季は低反発球の統一球導入により、ロースコアのゲームが増え、投手陣が充実したチームが上位を占めた。セ・パの覇者、中日と福岡ソフトバンクはいずれもリーグトップのチーム防御率を誇っている。短期決戦では1点を争う攻防がより熾烈を極めるだろう。そこでCSに出場する各チームの投手陣のキーマンにスポットを当て、CSを展望してみた。

 森福、シュートの効用

 ソフトバンクは圧倒的な強さでリーグ2連覇を達成した。クライマックスシリーズは前身のプレーオフも含め、6度出場して1度も突破できていない文字通りの“鬼門”だ。だが、優勝が早々に決まっても全くスキのない戦いぶりを見せており、「あくまでも勝負はCS、そして日本シリーズ」との意識がチーム全体に浸透していることがうかがえる。

 ソフトバンクは昨季まで攝津正、ブライアン・ファルケンボーグ、馬原孝浩からなる“SBM”という勝利の方程式を確立させていた。しかし、今季はこの方程式をあえて崩し、攝津を先発に転向させた。攝津の代わりに終盤の勝負どころで起用されたのが、左腕の森福允彦である。

 この森福、身長171cm、体重65キロ。プロ野球選手としては小柄で華奢である。失礼ながら、球場ですれ違うとボールボーイと間違えそうになるほどだ。そんなどこにでもいそうな24歳の若者はマウンドに上がった途端、とてつもなく大きな存在と化す。打者に背中を向けるような極端なセットポジションから、球の出所を隠すように腕を体の後ろに入れ、サイドハンドから140キロ台のストレートにスライダー、シュートを操る。今季は60試合に登板して4勝2敗1セーブ、防御率1.13。リーグ2位の34ホールドをあげた。

 プロ入りは2007年。大学生・社会人ドラフトで4巡目指名を受けた。社会人のシダックス時代の恩師は、東北楽天元監督の野村克也である。野村はシュートの習得をピッチャーの必修科目に入れている。ヤクルトの監督時代には川崎憲次郎にシュートを覚えるようアドバイスし、見事、最多勝に導いたのは有名な話だ。

 もちろん森福も例外ではない。高校時代、真っすぐとスライダーが軸だった左腕は新たな武器を手に入れたことでピッチングの幅を広げた。昨季からは右打者のアウトコースにもシュートを投げ、うまく引っかけさせる技術をも習得した。

 背番号は19。師が現役時代につけていた番号を受け継いだ。入団当初、野村はこうボヤいていたものだ。
「ホークスの19番は誰の番号か知ってんのか? 荷が重すぎるやろう」
 かつての名捕手が背負った栄光の背番号は、今やマウンド上の教え子によって新たな輝きを放ち始めている。

 ルーキー牧田、巧みな投球術

 レギュラーシーズン2位となった北海道日本ハムで、今季セットアッパーとして台頭したのが2年目の増井浩俊である。56試合で防御率は1.84。森福と並ぶ34ホールドをあげている。

 増井の武器は威力のあるストレートだ。ケガのため出場辞退した馬原の代わりに出場した今季のオールスターゲームでは、150キロ台の速球を連発し、1イニングを三者凡退に仕留めた。社会人の東芝に所属していた増井はプロ入り前年まで、MAXでも145キロが出るか出ないかといった普通の右腕だった。「今年はラストチャンス。プロに行くには何かを変えなくてはいけない」。オフにこれまで取り組んでこなかったトレーニングに励み、一冬で見違えるようにストレートが良くなった。加えて社会人時代に磨いたフォークボールでおもしろいように空振りがとれる。

「増井を8回に固定できたことは大きい」
 梨田昌孝監督はそう語っている。抜擢してくれた指揮官の勇退に花を添えられるか。日本ハムはソフトバンクや埼玉西武と比べるとやや打線が弱い。僅差を守り切るには彼の右腕が頼りである。

 終盤の猛烈な追い上げで逆転で3位に滑り込んだ埼玉西武は、交流戦後にルーキーの牧田和久を抑えに配置転換したことが功を奏した。クローザーとしての調整の難しさからか、夏場は打ち込まれるシーンも見られたが、9月中旬からの18試合で失点はわずかに1。CS進出へ絶対に負けられなかった17日の千葉ロッテ戦では3イニングを投げ切り、無失点に抑えた。

 牧田の持ち味はバッターのタイミングを巧みに外す投球術にある。
「社会人時代、同じ真っ直ぐでもリリースで強めに投げた後に、同じ腕の振りで少し抜く感じで投げてみたんです。そしたらバッターがタイミングを合わせられなくてバットの先にボールが当たったりしたんですよ。バッターにしてみたら同じ腕の振りで同じ真っ直ぐなのに、なかなかボールが来ないもんだからタイミングが合わなかったらしいんです。それでまた強めに投げると、今度は差し込まれたり……。もうこれだけで同じ真っ直ぐでも2種類にも3種類にもなる」
 変幻自在のサブマリンにかかる期待は大きい。経験を積めば、技巧派の味がさらに増してくるはずだ。

 修羅場をくぐった岩瀬の力

 セ・リーグでは最大10ゲーム差をひっくり返した中日は、先発のみならず中継ぎ、抑えの奮闘が光った。大逆転Vの功労者として真っ先に名前が挙がるのは浅尾拓也だろう。今季もリーグ最多の79試合とフル回転し、45ホールド。2年連続の最優秀中継ぎ投手となった。防御率は驚異の0.41。ドラゴンズファンからしてみれば、神様、仏様、浅尾様と言ったところか。

 今季の浅尾は10セーブをあげていることからも分かるように、守護神・岩瀬仁紀の代わりに試合を締めくくるケースも多かった。ただ、しびれるような短期決戦となれば、修羅場を何度もくぐった岩瀬の経験値も必要になるはずだ。
 
 忘れられないのは07年の北海道日本ハムとの日本シリーズ。3勝1敗で迎えた第5戦。先発・山井大介が神懸かったパフォーマンスを演じ、8回までパーフェクト・ピッチング。得点は中日が1対0とリード。ナゴヤドームは53年ぶりの中日の日本一と、シリーズ史上初の完全試合達成を目前にして、異様な雰囲気に包まれた。

 ところが、である。9回表、監督の落合博満は大記録に王手をかけた山井を降ろし、岩瀬をマウンドに送った。「今、思い返してもゾッとする」と岩瀬本人が告白するくらいだから、これこそ修羅場のマウンドだ。たかが3アウト、されど3アウト。どよめきの中、表情を消し、何事もなかったように淡々と自らの仕事をやりとげた岩瀬の姿を目のあたりにして「これぞプロフェッショナルの鑑」とヒザを打ったのは、きっと私ひとりではないはずだ。このベテラン左腕が最後に控えている限り、中日のブルペンが浮足立つことはあるまい。

 ユーティリティーピッチャーの久保

 4コーナーを回ってから中日に差し切られた2位の東京ヤクルトだが、勝ちパターンのラインアップでは引けをとらない。ひとたびリードを奪えば押本健彦、松岡健一、トニー・バーネットに、ルーキー左腕の久古健太郎を加えた4投手で相手の反撃をかわし、最後は林昌勇が締めくくる。負傷者が続出して、CSでの前評判は高くないが、この4枚がしっかり機能すれば、持ち前の粘り強さで着実に白星を重ねる可能性は充分ある。

 3位の巨人は今季、なかなか勝利の方程式が確立できなかった。最終的にセットアッパーからクローザーに昇格したのが久保裕也である。夏場には球団レコードとなる20試合連続無失点を記録するなど、その充実ぶりには目を見張る。久保はこれまで命じられるままに、ありとあらゆる仕事をこなしてきた。スターター、セットアッパー、モップアッパー(敗戦処理)、クローザー…。さながら投手における「ユーティリティプレーヤー」だ。

 聞けば、昨年4月、37歳の若さで他界した木村拓也の影響が大きいらしい。キムタクといえば内外野はもちろん、捕手がいないと見るやマスクまで被ってグラウンドに飛び出した。「オマエもいろいろな使われ方をして大変だろうけどクサらずに頑張れよ」。先輩の発したこの一言で目の前の霧が晴れた。どんなポジションでもチームに貢献できる。これは自分にしかできない誇るべき仕事だと。レギュラーシーズンを6連勝で終え、チームに勢いも出てきた。「縁の下の力持ち」として踏ん張ってきた彼の奮闘なくして「下剋上」はありえない。

 1点を守り抜く終盤にマウンドへ上がる投手たちの精神的重圧は察して余りある。ましてや勝てば天国、負ければ地獄の短期決戦となればなおさらだ。たった1球のミスが命取りになる。タイトロープを渡り切った先には監督のねぎらいの握手があるが、わたり損ねれば、そこは奈落の谷底だ。果たして、その方程式で日本一という解答を引き出せるチームはどこか。スカパー!でその行方をしかと見届けたい。


↑放送スケジュールなど詳しくはバナーをクリック↑

【クライマックスシリーズ日程】 ( )内は中継局、時間は試合開始時刻

◇パ・リーグ第1ステージ(GAORA
 北海道日本ハム × 埼玉西武 札幌ドーム
第1戦 10月29日(土) 14時
第2戦 10月30日(日) 14時
第3戦 10月31日(月) 18時

◇パ・リーグ第2ステージ(J SPORTS3
 福岡ソフトバンク × 第1ステージ勝者 ヤフードーム
第1戦 11月3日(木) 18時
第2戦 11月4日(金) 18時
第3戦 11月5日(土) 13時
第4戦 11月6日(日) 13時
第5戦 11月7日(月) 18時
第6戦 11月8日(火) 18時

◇セ・リーグ第1ステージ(フジテレビone
 東京ヤクルト × 巨人 神宮 
第1戦 10月29日(土) 18時30分
第2戦 10月30日(日) 18時30分 
第3戦 10月31日(月) 18時30分

◇セ・リーグ第2ステージ(第1〜4戦はスカチャン
 中日 × 第1ステージ勝者 ナゴヤドーム
第1戦 11月2日(水) 18時 
第2戦 11月3日(木) 18時
第3戦 11月4日(金) 18時
第4戦 11月5日(土) 18時
第5戦 11月6日(日) 18時 (TBSニュースバードで19時まで中継)
第6戦 11月7日(月) 18時 (フジテレビoneで19時まで中継

※このコーナーではスカパー!の数多くのスポーツコンテンツの中から、二宮清純が定期的にオススメをナビゲート。ならではの“見方”で、スポーツをより楽しみたい皆さんの“味方”になります。
◎バックナンバーはこちらから