10月27日のNPBドラフト会議、愛媛からは土田瑞起が巨人から育成2位で指名を受けました。僕はドラフト外の入団だったため、指名をテレビの前で待つのは生涯初めての経験。最初は落ち着いて画面を見ていましたが、育成ドラフトになり、指名が進むにつれ、「もし誰も名前が呼ばれなかったらどうしよう」と内心、ドキドキしていました。正直、監督1年目でNPB入りできる選手を育成するのは難しいと思っていただけに良かったです。
 土田は今季、25試合に登板し、5勝4敗1セーブ、防御率4.35。決して好成績ではありません。むしろ伸び悩んだと言えるでしょう。ただ、僕が今年、愛媛に来て、チームで最初に目に留まったピッチャーが土田でした。一目見た時に、投げ方やプレートさばきが非常にさまになっていたからです。

 150キロ近いストレートなどボールもいいものを持っています。それでも、このリーグで結果を残せなかったのは、フィジカルとメンタル両面で課題があるからでしょう。本人は一生懸命やっているつもりかもしれませんが、プロの目から見れば、まだまだ意識が低く、取り組みは甘い。そのため体幹が弱く、いいボールと悪いボールがはっきりしています。

 NPBはアイランドリーグ以上に厳しい世界です。まして巨人は選手が多く、その中で競争を勝ち抜かなくてはなりません。現に今季入団した育成選手で、もう戦力外になっている人間も出ています。今までの2倍、3倍どころの話ではなく、10倍、20倍は野球に打ち込まなくてはいけないでしょう。しかし、土田には今回、アイランドリーグで指名された7選手のうち、誰よりも伸びしろがあるとみています。24時間、野球に没頭できる環境の中、心身ともに進化して、大化けを期待したいところです。

 今年のドラフトでは、リーグで本指名を受けた選手は0人に終わりました。残念ですが、これは妥当な結果でしょう。昨年まで東北楽天で指導していて、丈武(元香川)、松井宏次(元長崎)など、このリーグにも素質のある選手がいることは現場も分かっています。ただ、プロは結果がすべての世界です。実際問題として、1軍で活躍している選手があまりいない現状では、各球団ともリーグの選手を上位指名するのをためらってしまいます。今回、NPBのユニホームを着る選手たちには、頑張ってリーグの価値を高めてほしいものです。

 そのためには自分のアピールポイントのみならず、基礎をしっかり固めてプレーの平均点を高めることを意識してほしいと感じます。正直、NPBには打球の飛距離やボールのスピードでは平均より秀でている選手がたくさんいます。リーグの選手が同じ土俵で勝負しても簡単には勝てません。ならば、どうすれば生き残れるか。その答えは、いい意味で監督、コーチにとって使い勝手の良い選手になることです。いくら打てても守備や走塁がイマイチでは常時試合には出られません。走攻守がある程度のレベルであれば、守備固めや代走といった部分からチャンスは出てきます。そして、地道に継続して結果を残すこと。派手なプロ野球人生ではないかもしれませんが、このほうが長くプロで生活できるでしょう。

 おかげさまで1年間、このリーグで指揮を執り、非常にいい勉強になりました。選手たちは非常にまじめですし、野球に対する姿勢は言うことありません。ただ、僕も含めた指導者のほうが、元プロとしてもっとレベルの高い野球を追求しなくてはならないと感じました。現状はNPBへ行くことを目標に育成プランを立てるのではなく、やや選手たちのレベルに合わせた指導になっている面が否めません。

 もちろん、これは「言うは易く、行うは難し」です。リーグの選手全員がプロに行けるわけではありませんから、NPBを意識した指導を一律に行うことは無謀なのかもしれません。そこで僕はこう考えました。「このリーグは野球の専門家を育成する場所である」。NPBに進んでも、夢破れて指導者の道を歩んでも、このリーグで育った選手は野球の基本を知っている。そう評価されるチームづくりをしたいと考えています。

 このオフ、愛媛は土田も含め、チームの半数に当たる14名が退団します。また来季はガラリと陣容が変わりそうです。独立リーグの監督は編成やスカウトの役割も兼ねています。最近はネットなどを駆使して、全国のドラフト漏れしたアマチュアの有望選手を調べているところです。これも僕にとっては初めてで、いい経験をさせてもらっています。

 僕は新人に対して「フィジカルの強さ」を第一条件に求めたいと思っています。加えて素材が良く、バッテリーを含めたセンターラインの選手であればベストです。とはいえ、そんな選手はなかなか見つかるものではありません。最低限、体力があれば、どのポジションもこなせますし、技術はこちらが教えられます。まず、来季は体の強い選手がたくさん入団し、ひとりでも多くの「野球の専門家」を輩出できるチームになればと願っています。

 今年1年間、愛媛の皆さんには本当にお世話になりました。また来季もよろしくお願いします。  


星野おさむ(ほしの・おさむ)プロフィール>:愛媛マンダリンパイレーツ監督
 1970年5月4日、埼玉県出身。埼玉県立福岡高を経て、89年にドラフト外で阪神に入団。内野のユーティリティープレーヤーとして、93年に1軍デビューを果たすと、97年には117試合に出場。翌年には開幕スタメンで起用される。02年にテストを経て近鉄へ。04年に近鉄球団が合併で消滅する際には、本拠地最終戦でサヨナラ打を放つ。05年に分配ドラフトで楽天に移籍し、同年限りで引退。06年からは2軍守備走塁コーチ、2軍打撃コーチなどを務めた。11年より愛媛の監督に就任。
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