先のドラフト会議で香川からは冨田康祐(横浜育成1位)、亀澤恭平(ソフトバンク育成2位)、中村真崇(広島育成2位)、西森将司(横浜育成2位)と4選手が指名を受けました。当日は誰がどこに指名されるのか楽しみでもあり、運命を左右される選手のことを思うと心苦しくもあり、複雑な心境でテレビ画面を見つめていました。僕自身もドラフト会議では、候補に挙がっていた同級生が指名されず、素直に喜べなかった記憶があります。そんなことも思い出しました。
 指名された4選手はいずれも育成選手からのスタートです。事前に上位指名を報じられていた選手もあり、内心はいろいろな思いがあるでしょう。しかし、まずはスタートラインに立たないことにはプレーしたくてもプレーできません。自分の持ち味をしっかり伸ばし、コーチや先輩のアドバイスを取捨選択しながら、早く結果を出して支配下登録を勝ち取ってほしいものです。

 冨田は今年1年だけの付き合いでしたが、練習に対する取り組みは素晴らしいものがありました。当然の話ですが、NPBを目指すなら人と同じことをしていてもダメです。彼は球場入りの際も車ではなく、自転車をこいで移動し、足腰を鍛えていました。抑えで1シーズンを投げ切り、故障しなかった点はプロでもアピールポイントになるはずです。

 彼の持ち味は150キロ超のストレート。みやざきフェニックス・リーグでもNPBの選手たちから「速い」という声が漏れ、7試合連続無失点と結果を残しました。もちろん、このくらいの速球を投げるピッチャーはNPBには山ほどいます。横浜ではストレートを磨くだけでなく、変化球の精度を高めることも求められるでしょう。

 亀澤は以前にも取り上げたように素晴らしい足を持っています。ソフトバンクは選手層が厚いですから、まず、この俊足を武器にすべきです。今季から低反発の統一球を導入した影響で、各チームは勝負どころで1点をもぎとれる足のスペシャリストをベンチに置くようになりました。亀澤もこのポジションから守備固め、代打とチャンスを広げてほしいと感じています。

 ただ、1軍ベンチ入りを果たすには、まだまだ経験が必要です。状況やボールカウント、ピッチャーのクセなどを頭に入れてプレーしない限り、NPBでは簡単には走れません。彼は香川に来るまで、ほぼ本能のままに野球をやってきました。この1年間、考える野球を指導してきたものの、道半ばです。もっと野球を勉強すれば、現状の倍の能力が引き出せるでしょう。そのくらいの高い素質を持っている選手だと信じています。

 中村は3年連続で打率3割以上をマークしたようにリーグでの実績では文句ありません。昨年もドラフト指名が確実視されながら名前を呼ばれず、一時は野球を辞める寸前までいった人間です。今季はキャプテンとなり、自分だけではなくチーム全体のことを見渡せるようになりました。人としての幅が広がったことに、野球の神様がほほ笑んでくれたのかなと感じています。

 28歳という年齢を考慮すれば、1年目から結果を残すことが求められます。とはいえ簡単に打てるほど、NPBは甘い世界でもありません。特に速球に対して、差し込まれずに打ち返せるかどうか。ここが活躍できるかどうかのカギを握ると思います。

 西森は今季、大きく変わりました。これまでの彼の課題はメンタル面の弱さ。キャッチャーという重要なポジションであるにもかかわらず、すぐ感情が表に出て損をするところがありました。それが今季は気持ちを切らさず、全体を見渡せるようになってきたのです。しかも、一時期だけではなく、1年通じて姿勢が変わらなかったところに成長がみてとれました。

 心が変われば行動が変わります。行動が変われば運命も変わります。精神面での変化がプレーにも表れ、スカウトたちの目に留まったことは言うまでもありません。横浜にはアイランドリーグから今季、岡賢二郎(元愛媛)が入団しています。一緒にプレーしていて、西森自身も「負けていない」という気持ちがあるはず。僕自身もそう思っています。2人で切磋琢磨して最下位球団を盛り上げてほしいものです。

 今回、指名を受けた4選手は4番打者にショート、キャッチャー、クローザーとチームの要を担っていました。それだけに来季に向けたチームづくりは大変です。特にセンターラインと打線は大幅な変更を余儀なくされるでしょう。これから始まるトライアウトなどを通じて、軸になる素材をどんどん発掘していきたいと考えています。そして来年もまた多くの選手がNPBに行けるチームを監督と一緒に構築していきます。

 今季は残念ながらリーグ年間王者と、独立リーグ日本一は逃してしまいましたが、1年間、熱い応援をありがとうございました。また2012年もよろしくお願いします。  


前田忠節(まえだ・ただとき)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
 1977年10月4日、和歌山県出身。PL学園時代は投手として福留孝介(現インディアンス)らと甲子園に3度出場(最高は3年夏のベスト8)。東洋大を経て、2000年にドラフト3位で近鉄に入団。1年目から巧守の内野手として100試合に出場した。チームがリーグ優勝した2年目(01年)には113試合に出場したが、以降は出番が減少。05年には近鉄球団消滅に伴って東北楽天へ移籍するも、すぐにトレードで阪神に移った。09年限りで戦力外通告を受け、現役を引退。翌年より香川のコーチに就任。現役時代の通算成績は426試合、打率.194、2本塁打、27打点。
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