相思相愛と言われ、巨人の単独指名が確実視されていた東海大のエース・菅野智之の交渉権は抽選の末、北海道日本ハムが手にした。これにより、巨人は香川・英明高の大型サウスポー・松本竜也を“ハズレ1位”に指名した。

 松本は193センチの長身から最速146キロのストレートを投げおろす。スライダー、フォークも巧みに操り、今夏の甲子園では2試合で20三振を奪った。
 ニックネームは“香川のランディ・ジョンソン”。メジャーリーグで通算303勝をあげた“ビッグユニット”にイメージを重ねられてうれしくないはずはあるまい。
 甲子園での投球をテレビで見たが、長身の割にはバランスが良く、腕もよく振れていた。下半身が安定すれば、あと4、5キロは球速がアップするように感じられた。必然的に変化球のキレも良くなるだろう。

 本人の憧れは北海道日本ハムのダルビッシュ有。1年目から1軍に上がり、5勝を目指すという。ちなみに目標の5勝はダルビッシュがルーキーイヤーに記録した勝ち星だ。
 英明の香川智彦監督は「巨人は選手層が一番厚いチーム。まずは2、3年で壊れないような体をしっかりつくって、ローテーション入りできる投手になってほしい」とエールを送っていた。

 ところで高卒サウスポーの中には失敗例も少なくない。まだ結論を下すには早いが、6年前の高校生ドラフト1巡目・辻内崇伸(大阪桐蔭)は左ヒジの故障などもあって、いまだに2軍でくすぶったままだ。
 高校時代の辻内の評価は松本以上だった。甲子園でマークした156キロのストレートは文字通り、うなりをあげていた。球種も豊富でストレートに加え、カーブ、スライダー、チェンジアップ、フォークと一通りのボールを放ることができた。これほどの逸材が、一向に開花しない原因は、いったいどこにあるのだろう。
“20年にひとりの逸材”と呼ばれた埼玉西武の菊池雄星(花巻東)も今季4勝(1敗)をあげたとはいえ、メジャーリーグの球団まで獲得に乗り出した2年前のフィーバーを思えば、やっとスタート台に立ったにすぎない。真価が問われるのはこれからだ。

 巨人フロントの中には「生粋の1位よりも“ハズレ1位”のほうが多少はプレッシャーが小さいのではないか」との声もある。
 思い出すのがショートの坂本勇人だ。周知のように当初、巨人が狙っていたのは愛工大名電の堂上直倫。3球団が競合した結果、堂上を抽選で引き当てたのは父・照が球団寮の寮長を務めていた中日だった。
 そこで巨人は青森・光星学院の坂本を“ハズレ1位”で指名したわけだが、現時点では坂本を獲って正解だったと言えよう。

 このようにドラフトの“損益計算”は5年、いや10年先にならなければわからないのが実情だ。ダイヤモンドの原石も磨かなければ光らない。獲得後は球団の育成能力が問われることになる。

<この原稿は2011年11月20日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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