“ピラニア”への知見があれば……惜しい
原因が学生時代に観たB級映画にあったのは間違いない。集団で襲いかかり、あっという間に獲物を食い尽くす。サメの映画を見てからしばらくの間、海に行けなくなってしまったわたしは、当然、ブラジルに行っても川に入ろうとは思わなかった。
クラブW杯の初戦でリーベル(リバー・プレート)に1-3で敗れた浦和は、それに近い感覚だったのかな、と思う。
ピラニアがいる、ここは多摩川ではないと身構えてしまった誰かのように、浦和の選手たちは、伝統の赤襷を前にして、少しばかり平常心を失っていた。リーベルの選手がいつも通りのメンタルで試合に臨んだのに対し、レッズの選手たちはよそ行きの気分でキックオフを迎えていた。
惜しい。
確かに、ピラニアには出血している獲物が川に入ってくると、集団で襲いかかる習性があるという。だが、彼らは捕食者であると同時に、捕食される側でもある。サンパウロの日本食レストランでは、普通にピラニアの素揚げがメニューに載せられていた。
リーベルの力が浦和を上回っていたのは間違いない。スコアは、内容は、ほぼ順当なものでもあった。ただ、浦和にピラニアに対する知見があれば、つまり「危険な場合もあるが、対処できない相手ではない」という確信があれば、まったく違った展開に持ち込むことも可能だったとわたしは見る。
身体のどこかから出血していない限り、ピラニアはさほど危険な魚ではない。そして、リーベルにとっての浦和の出血は、いわゆる“逃げ”のバックパスだった。日本で何の問題もないプレーが相手の引き金を引いてしまうことに、浦和の選手たちは大いに戸惑ったことだろう。残念ながら、浮足立つ気持ちを落ち着かせられる存在は、ベンチにもピッチにもいなかった。
だが、ピラニアに対する前知識のなかった浦和の選手も、プレー時間が進むにつれて対処の方法を覚えていった。ほぼ一方的に押し込まれた立ち上がり20分を除くと、試合内容はひいき目に見れば、ではあるがほぼ互角。リーベルの2点目は浦和の明らかなミス。3点目はCKからのヘッド一発で、崩されてのものではない。むしろ、左サイドで好機を演出した松尾佑介あたりは、多くのスカウトがその名をリストに書き込んだのではないか。
大切な初戦を落とした上に、次の相手はインテル・ミラノ。つい「ピラニアの次はサメか」と考えてしまいがちだが、おそらくはそうした先入観こそが最大の敵なのだろう。
実際、浦和戦のあとにメキシコのモンテレイと対戦したインテルは、1-1で引き分けている。会場がメキシコ勢にとっては準ホームともいえるロサンゼルスだったこと、モンテレイの主将が経験豊富なセルヒオ・ラモスだったこと、など、「だから浦和も」とは言い切れない部分もあるが、ジョーズと人間との力関係ほどではなさそうだ。
浦和の試合を観戦しながら考えたのは「ここに川崎Fが出ていたらどうなっただろう」ということだ。リーベルは確かに強かったが、川崎FがアジアCLで戦った中東勢には、気構えではどうにもならないぐらいの個の強さを感じさせられたからだ。そこでの経験が、世界の舞台でどう役立つかを見てみたかった。
この後、大会ではアルヒラルがレアル・マドリードと、アルアインがユベントスと対戦する。レッズの戦いぶりとあわせて、こちらにも注目していきたい。
<この原稿は25年6月19日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>