第218回 「どうして、その5mが走れないんだ!」byジーコ
現在、アメリカではFIFAクラブワールドカップ2025が開催されています。Jリーグからは、浦和レッズが参戦しましたが、グループリーグ敗退の憂き目にあいました。しかし、世界のレベルを肌で感じた浦和の選手たちのサッカー人生の勝負は、これからとも言えるのではないでしょうか。
勝負を分けたシーン
浦和レッズはリーベルプレート(アルゼンチン)、インテル(イタリア)、モンテレイ(メキシコ)と同組のグループEでした。結果は、リーベルプレートに1対3、インテルに1対2、モンテレイに0対4と3戦全敗でした。
特に初戦のリーベルプレート戦は、勿体ないシーンがありました。0対1で迎えた前半40分。一度、ボールを失った浦和は、MF松尾佑介との連係でMF渡邊凌磨がボールを保持。左に開いた松尾にボールが渡りました。MFマテウス・サヴィオや、ボランチのMFサミュエル・グスタフソンが走り込みましたが、クロスはファーに流れました。このシーン、右サイドハーフのMF金子拓郎あたりも入ってきて欲しいなと……。
体力的に厳しいのは僕も承知です。ただ、0対1というスコア。相手の状況を考えると、畳みかけるべき場面でした。きつい中でのあと5メートル、きつい中でのあと2~3歩がリーベルプレート戦の勝敗を分けた気がしました。
ジーコが住友金属に移籍してきた当初、よく言っていました。
「どうして、その5メートルが走れないんだ! オレがこの位置でボールを受けたら、オマエがここに走れば、チャンスじゃないか!」
体力的にきついから走れなかったのか、そもそもジーコの指し示すスペースに走ることの重要性に気が付いていないのか。そんなことをジーコは問いません。世界を見てきたジーコにとって、走らなかったという結果が理解できなかったんでしょう。ジーコは細かなところまで、厳しく要求してきました。クラブワールドカップでの浦和の戦いを見て、そんなことを思い出しました。
J復帰組が示すように
とはいえ、浦和の選手たちは悲観する必要はないように思います。クラブワールドカップの舞台で肌で感じたことを、ぜひ、Jリーグで生かしてほしい。今回は攻撃面での勿体ないシーンを挙げました。しかし、おそらく守備面でもカルチャーショック的なものはあったはずです。これらをJの舞台で実行すれば、拾える勝ち点は増えるでしょう。それらをプレーで示し、日本サッカーのレベルを1つでも2つでも押し上げてもらいたいですね。
これはクラブワールドカップの話でなくて恐縮ですが……。今後、海外でプレーした日本人選手がJリーグに復帰することが益々増えると思います。FW大迫勇也、FW武藤嘉紀、DF酒井高徳(以上、ヴィッセル神戸)、DF酒井宏樹(浦和復帰後、オークランドFCに移籍)らは、レベルの高いプレーを見せることで、周囲の意識の引き上げをしてくれています。言葉で伝えるよりも、プレーで示した方が若手選手たちには効果的でしょう。それに若手のみならず、それを見ている少年少女にも良い影響を与えることは言うまでもありません。これからの日本サッカーのレベルを引き上げる大切なことだと思います。
浦和の選手たちの今後の戦いぶりに注目しましょう。
さて、最後に僕の個人的な話を少しだけ。実は、昨年1月、長く務めた鹿島ハイツスポーツプラザを退職しました。少しゆっくりと“夢探し”をしていました。そして、今現在、徐々にですが、新たに動き出しています。サッカーファンとスタジアムの懸け橋になれたらいいな、と思いながら日々奮闘しています!
●大野俊三(おおの・しゅんぞう)
<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。24年1月、長く務めた鹿島ハイツスポーツプラザを退職。新たな夢の実現のため、日々奮闘中。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。
*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。