第219回「みんなに幸せになってほしい」と望むジーコ
猛暑が続いていますが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。体調にお変わりなく過ごせていますか? Jリーグは首位争いが激しくなってまいりました。今日は上位3チームを中心に語りつつ、サッカーの神様・ジーコの慈善試合にも触れましょう。
神戸の意地
今季リーグ戦3試合連続引き分け、第4節で黒星とスタートダッシュに失敗したヴィッセル神戸が、じわりじわりと順位を上げ、首位に立っています。連覇王者(2023年、2024年)の意地を見せています。
FW大迫勇也、FW武藤嘉紀といった主力がケガにより戦線離脱を余儀なくされていますが、吉田孝行監督の見事なやりくりで勝ち星を伸ばしています。2023年まで鹿島アントラーズで主に右サイドバックとして活躍したDF広瀬陸斗が左ウイングで頑張っています。吉田監督は昨年から広瀬を左ウイングで起用していましたが、今季も継続のようです。
おそらく周囲の選手をいかせる、バランスを取れるといった理由でのウイング起用だと思います。ただ、攻撃的なポジションで出場しているならば、やはり個人の得点やアシストの数を伸ばしてほしい。右足のクロスは鋭く非凡なものがあります。あのキックをシュートにいかせれば広瀬のプレーの幅がもっと広がるはず。左サイドから縦に行くと見せかけて切り込んでのシュートなど、かたちを身に付けてほしい。彼の今後の活躍に期待です。
2位のアントラーズは追いつかれてしまった立場。特に6月21日第21節・FC町田ゼルビア戦、28日第22節・ファジアーノ岡山戦、7月5日第23節・川崎フロンターレ戦の3連敗が痛手でした。特に町田戦ではFW鈴木優磨を左サイドハーフで先発させた。結局この試合でいつも通りFWレオ・セアラとの2トップに戻したのですが、鬼木達監督の描いたコンセプトがうまく選手たちに伝わっていないように感じました。鬼木監督は歯車をかえ、自分なりのシステムを構築したかったのでしょうが、合っているように見えませんでした。
永遠にこの町に残る
しかしながら、鈴木個人のこれまでのパフォーマンスは素晴らしい。アントラーズには彼のような“吠える選手”が必要です。僕らの時代はその役をジーコが担ってくれていました。「なぜわからない? なぜこれしかできない!?」と僕たちは鼓舞されました。今は鈴木がその役まわりを演じてくれています。ただ、パフォーマンスも素晴らしいので、このままチームを牽引してほしいです。
さて、3位の柏レイソルについて。今季からリカルド・ロドリゲス監督が指揮を執っています。彼の戦術がうまくフィットしています。7月20日第24節のアントラーズ戦こそ2対3と落としましたが、内容は悪くなかった。個性的な選手も多く、アントラーズに在籍していたFW垣田裕暉もワントップとして機能しています。今季新加入選手も自信をつけているようですし、今以上に歯車がかみ合うとみています。秋以降、もうひと暴れするのでは? と期待しています。
最後にジーコの慈善試合について触れましょう。ジーコが発起人を務めるチャリティーマッチ「Zico All-Star Game For Peace HIROSHIMA 80 Years」が27日、エディオンピースウイング広島で行なわれました。ロナウジーニョらがいるジーコワールドレジェンズとジーコが日本代表を率いていた時のメンバーやアントラーズOBが中心なったジャパンレジェンズの一戦。3対1でワールドレジェンズが勝利しました。この収益の一部は広島県サッカー協会を通じて子どもたちのサッカー環境の整備、市を通じて原爆ドーム・平和記念公園の整備や補修にあてられるそうです。
ジーコはサッカーを通じてみんなに幸せになってほしいと望んでいる人間です。希望を与えるためにこういう機会をつくり、スターを集めてくれて、収益を寄付しています。世界的スターのジーコが日本に来てくれたことを、心の底から感謝しています。鹿島市内にはジーコの銅像が2体もあります。永遠にこの町に残されるものでしょう。
●大野俊三(おおの・しゅんぞう)
<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。24年1月、長く務めた鹿島ハイツスポーツプラザを退職。新たな夢の実現のため、日々奮闘中。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。
*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。