第13回「持続可能なラグビー界に」ゲスト内山浩文氏
二宮清純: 今回のゲストはラグビー・リーグワン・浦安D-Rocksでゼネラルディレクターを務めた内山浩文さんです。本日はラグビーボールをお持ちいただきました。
内山浩文: どうぞ、よろしくお願いいたします。ボールは2019年から通勤のお供にしています。外出先で興味を持った方と「名刺交換をしましょう」という流れになることがあり、コミュニケーションをとる、いいきっかけになっています。また飲み会に持って行くこともあります。社内では、会社経営層へのプレゼンテーションにも活用し、「みんなの思いが(ボールに)詰まっています!」とアピールするんです。
伊藤清隆: アハハハ。それは効果的かもしれませんね。ラグビー出身の方で経営者として成功された方はとても多い印象を受けます。いずれも非常にラグビー愛が強い。実際にその方たちから弊社のスポーツスクール事業の種目に、「ラグビーを追加してほしい」という要望もいただいています。まだ実現には至っていないのですが……。
二宮: その理由は?
伊藤: タグラグビーなど安全性に配慮したものがあるのは存じ上げていますが、“ラグビーは危険”というイメージがまだ残っている。また、ラグビーをきちんと教えられる指導者の確保ができていないということも理由のひとつです。
二宮: 確かに「ウチの子どもがケガしたらどうしよう」と考える親御さんもいらっしゃるでしょう。内山さんとしては、どのような活動をされているのでしょうか?
内山: ラグビーはインテンシティが高いスポーツなので、当然、ケガのリスクを伴います。ラグビーをやったことがない方でも、なんとなく“危険だ”というイメージを持たれているかもしれません。私が特に課題と感じているのは、ラグビーを継続するための環境が整っていないこと。一例として多くの公立中学校でラグビー部が存在しない。地域のラグビースクールでプレーしていた子どもは、中学校に進学した際、ラグビーを続けることができなくなってしまう。この“空白の3年間”が競技の持続性を妨げているんです。我々としては、ラグビーというスポーツを令和の時代にどういうふうに“翻訳”していくかがすごく大事だと考えています。
世界共通の課題
二宮: 翻訳とはどういうことでしょう?
内山: 例えばビジネスの世界で、なぜラグビーというスポーツが認められているか。それは利己より利他の精神が養われるからです。リーダーシップやキャプテンシーの養成など人間的成長、人材育成が期待できるスポーツであるということを、ラグビーに興味のない人たちにもしっかりと翻訳し伝えることが今後、競技の普及活動をしていく上で、最も大切な要素だと思っています。
二宮: 中学校の部活動の地域展開についてもうかがいます。D-Rocksは茨城県つくば市へのコーディネーター協力、千葉県の地域クラブの指導者講習を行っているそうですね。
内山: 我々は、ラグビーの活用法を変えていかなきゃいけないと思っています。ゲームチェンジやパラダイムシフト、もしくはムーンショット計画というくらい、これまでにないアプローチをやらないと、ラグビーの競技人口は増えていかないのではないか。近年、我々は自治体が何に困っているかをヒアリングしていく中で、「指導者がいない。指導者を育てる場を提供してください」との要望をいただき、指導者講習の実施に乗り出しました。
伊藤: D-Rocksのホストエリアは千葉県の浦安市です。茨城県つくば市も入っているのでしょうか?
内山: つくば市はホストエリアではありませんが、市内の筑波大学とは、選手たちのセカンドキャリア、デュアルキャリア支援の一環で提携しています。OBを筑波大や筑波大との協業で運営するアカデミー「UTRラグビーアカデミー」に派遣し、選手のキャリア形成と地域の課題解決の両立を狙って活動を続けています。
二宮: つくば市内のラグビースクールとも提携されているのでしょうか?
内山: その通りです。今は浦安市で展開しているアカデミーのメソッドをそのまま他地域にフランチャイズ化するようなかたちを取っています。さらには、どの地域でも転用できる指導プログラムを提供しています。
地方に活躍の場を
二宮: ラグビーの場合、7人制もありますが、通常は15人で戦う競技です。少子化の昨今、高校野球ですら選手数が足りずに合同チームが増えている中、最低でも15人は必要なラグビーはより大変ですよね。
内山: 我々のクラブはフランス、オーストラリア、アメリカ、韓国のクラブと提携しています。この4カ国はワールドカップの開催国もしくは開催予定国になっている国々です。これらの関係者が一貫して言っているのが、「15人を揃えてオン・ザ・ピッチでやるスポーツは、サステナブル(持続可能)じゃないよね」と。我々がラグビーの必要性を訴えていくには、サステナビリティに繋がるような新しい取り組みが必要だと考えています。
伊藤: もはや日本だけの問題ではないんですね。
内山: はい。ラグビーの国際統括団体「ワールドラグビー」に問い合わせをした際にも、「これから10年、20年先のワールドカップ開催国に求めることは、どれだけその国の協会がサステナビリティの領域にしっかりと向き合っているかどうか。ここが大きなベンチマークになりますよ」と言われました。
二宮: 例えば全国高校ラグビー大会を観ていても、都道府県によっては毎回同じ学校が出場しているケースが多い。強豪校も大都市に集中している傾向がうかがえます。
内山: そうですね。地方創生はまさしく、我々が着手し始めているところです。企業スポーツをどう活用していくか。リーグワンのラグビークラブを抱える企業は、世界を代表する企業ばかり。各自治体に支店とか営業所を数多く持っています。人事異動により、地方配置のアスリート分散型社会を形成することができると思うんです。業務外の時間で、自分の可能性、キャリアに繋げていきたいと考えるラグビー選手やOBは増えてきています。それを我々としても積極的に後押しすることにより、地域でのスポーツ、地域でのラグビー、地域での利他的行動を推進していきたいと考えています。
二宮: なるほど。企業の人事制度の話が出ましたが、部活動の地域展開に日本郵政が協力することが決まりました。
伊藤: もちろん大歓迎ですね。私たちと取り引きのある銀行の方とも、よく話すのですが、「早く部活動を手伝いたい」と兼業を希望している方が数多くいます。地域貢献の一環として、各企業が副業として部活動の顧問に就くことを認めるという流れは、今後どんどん増えていくでしょう。ラグビーに関して言えば、今は公立中学校にラグビー部をつくっていくことの方が現実的だと思います。今後は1校にひとつのラグビー部よりも、ひとつの地域でラグビーチームを持つかたちが主流になってくると思います。その時にラグビー協会などラグビー界の方々と、協力していければ幸いです。
(鼎談構成・写真/杉浦泰介)
<内山浩文(うちやま・ひろふみ)プロフィール>
1980年、宮崎県出身。小学5年でラグビーを始め、中学はソフトテニス部に所属。日向高校から本格的にラグビーを始め、中央大学、社会人チーム、NTTコミュニケーションズ(現・浦安D-Rocks)等でプレーした。09年に現役を引退。2年間社業に専念した後、11年度からはチームコーディネーターとして、日本代表選手を数名輩出させた。16年には日本ラグビー協会に出向。17年から古巣に復帰するとゼネラルマネジャーに就任。22年にNTTグループのラグビーチーム再編成により発足した浦安D-Rocksのゼネラルマネジャー、ゼネラルディレクターを務めた。今年7月より再び日本ラグビー協会に出向。
<伊藤清隆(いとう・きよたか)プロフィール>
1963年、愛知県出身。琉球大学教育学部卒。2001年、スポーツ&ソーシャルビジネスにより、社会課題の永続的解決を目指すリーフラス株式会社を設立し、代表取締役に就任(現職)。創業時より、スポーツ指導にありがちな体罰や暴言、非科学的指導など、所謂「スポーツ根性主義」を否定。非認知能力の向上をはかる「認めて、褒めて、励まし、勇気づける」指導と部活動改革の重要性を提唱。子ども向けスポーツスクール会員数は3年連続国内No.1、部活動受託校数も国内No.1(※1)の実績を誇る(2024年12月現在)。社外活動として、スポーツ産業推進協議会代表者、経済産業省 地域×スポーツクラブ産業研究会委員、日本民間教育協議会正会員、教育立国推進協議会発起人、一般社団法人日本経済団体連合会 教育・大学改革推進委員ほか。
<二宮清純(にのみや・せいじゅん)プロフィール>
1960年、愛媛県出身。明治大学大学院博士前期課程修了、同後期課程単位取得。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。大正大学地域構想研究所客員教授。経済産業省「地域×スポーツクラブ産業研究会」委員。認定NPO法人健康都市活動支援機構理事。『スポーツ名勝負物語』(講談社現代新書)『勝者の思考法』(PHP新書)『プロ野球“衝撃の昭和史”』(文春新書)『変われない組織は亡びる』(河野太郎議員との共著・祥伝社新書)『歩を「と金」に変える人材活用術』(羽生善治氏との共著・廣済堂出版)、『森保一の決める技法』(幻冬舎新書)など著者多数。
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*スポーツスクールの会員数3年連続 国内No.1
・スポーツ施設を保有しない子ども向けスポーツスクール企業売上高上位3社の会員数で比較
・会員数の定義として、会員が同種目・異種目に関わらず、複数のスクールに通う場合はスクール数と同数とする。
*部活動受託校数 国内No.1
・部活動支援事業売上高、上位3社の2024年の受託校数を比較
株式会社 東京商工リサーチ調べ 2024年12月時点