念願叶ってプロサッカー選手となった登里だったが、中村憲剛や谷口博之(現横浜FM)、山岸智(現広島)らがひしめくMFのポジション争いに割って入ることができず、開幕後、ベンチ入りさえできない日々が続いていた。デビューが近づいたのは第12節のジュビロ磐田戦。ヴィトール・ジュニオール、横山知伸のMF2人が出場停止になった影響で初のベンチ入りメンバーに選ばれる。しかし、この試合では出番が訪れることはなかった。
 それでも、第14節(6月20日)の大分トリニータ戦、代表招集の関係やケガもあり、中村憲剛、ヴィトール・ジュニオールら主力5人が欠場。再び、ベンチ入りメンバーに選ばれ、デビューの可能性がでてきた。

 試合は川崎が2−0とリードする展開。勝利も見え、残り時間わずかというところで、等々力競技場のベンチ裏でアップしていた登里に声がかかった。
「“来たぁ”と思いました」
 後半41分、関塚隆監督(現U-22代表監督)に「点を取ってこい」と指示され、待ち焦がれたJのピッチへと足を踏み入れる。

 ジュニーニョを抑えてのゴール

 この試合の観客数は19,375人。ピッチに繰り出す背番号23をサポーターが大きな拍手で盛り上げる。
「デビューした時はサポーターの方に後押ししてもらいました。おかげでいいプレーができたと思います」
 本人が振り返ったように、交代直後、いきなりシュートを放つ。短い時間にもかかわらず、キレのある動きを披露した。
「これまではベンチに入り、デビューすることが目標でした。その目標が叶ってまた次のステップに進むことができた。大分戦はプロとしての本当の始まりだったと思います」

 上々のデビューを果たした登里に2度目の出場機会が巡ってきたのは第30節のサンフレッチェ広島戦(10月25日)だ。夏場はU-22代表にも選ばれ、チームを離れていたが、10月に入ってベンチ入りの機会を増やしていた。
 
 4−0と大差をつけていた後半36分、レナチーニョに代わって途中出場を果たす。そして40分、大きな仕事をやってのけた。右サイドを味方とのワンツーで崩し、PA右前でシュート体勢に入る。その瞬間、ゴールを確認する視野の中に中村憲剛が映った。
「周りの選手からは“打て”と言われたんですけどね。ゴールを見たらボヤーっと憲剛さんがフリーになっているのが見えた」

 左足のインサイドから出されたパスが、PA手前にいた中村に渡る。これを中村は落ち着いてゴール左下に突き刺した。
「憲剛さんへのアシストだったので、“アシストは登里”ってテレビに出るじゃないですか。それが大きかったですね(笑)」
 記念すべきプロ初アシスト。登里は笑顔で振り返り、続けた。
「関さんにチャンスをもらったので、期待に応えたかった。(アシストは)チャンスを生かせたと思いますね」

 だが、この試合はこれだけでは終わらなかった。ハイライトは、アシストの1分後に訪れた。
 ピッチ中央付近から中村が送った長い距離のパスがゴール前でこぼれる。これに前線へ抜け出したジュニーニョより早く反応したのが登里だった。
「あの時はジュニーニョを“どけどけ”みたいな感じで手で制止させていました(笑)」
 PA右角から右足で蹴ったボールが無人のゴールに吸い込まれる。サポーターからの歓声を浴びながら、登里はチョン・テセ(現ボーフム)に抱きかかえられていた。
「もう、頭が真っ白になりましたね」
 1ゴール1アシスト――。出場時間わずか9分で高卒ルーキーは鮮烈なインパクトを残した。

  充実のルーキーイヤーの先に

 同年、川崎はナビスコ杯で初優勝をかけて決勝にコマを進めていた。直前のリーグ戦で強烈なアピールに成功した登里は、FC東京との決勝戦(11月3日)にもベンチ入りを果たす。そして0−2とリードされた後半39分、1年目ながらファイナルの舞台を経験する。しかし、目立った活躍はできなかった。

「決勝の舞台を経験できたのは貴重でした。ただ、本音を言えばやっぱり……。大事な場面で関さんに使ってもらえたわけですから、どうにかして得点であったり、流れを変えたりしたかったです」

 ほろ苦いファイナルとなったものの、その後は天皇杯にも2試合出場。ルーキーイヤーは公式戦5試合出場、1得点、1アシストの成績だった。
「試合に出場すれば、いいかたちは残せていました。出場機会も決して多くはないですけど、1年目にしては恵まれていたと思います。次のシーズンに向けて励みになりました」

 確かな手ごたえと結果をつかみ、さらなる充実を求めて登里はプロ2年目に突入した。試合出場数は増え、公式戦16試合に出場。だが、ゴールはなかなか生まれなかった。「すごく悔しい、納得がいかないシーズンでした」と2年目を回想した後、ポツリと続けた。
「今までのサッカー人生の中で、一番悩んだ時だと思います」

 高校からプロ1年目と着実にステップアップを果たしてきた20歳のドリブラーは、この時、大きな壁にぶつかっていた――。

(第3回へつづく)
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登里享平(のぼりざと・きょうへい)プロフィール>
1990年11月13日、大阪府生まれ。クサカSS─EXE'90FCジュニア─EXE'90FC─香川西高。香川西では高校サッカー選手権に3年連続出場を果たすなど、全国の舞台を経験。3年の選手権後には高校選抜にも選出された。09年、川崎フロンターレに加入し、2試合1得点。昨季は9試合と出場機会を増やした。迎えた今季、開幕戦でスタメンに抜擢されゴールをあげるなど、19試合2得点。今後の川崎を背負う選手として期待されている。またU-22日本代表にも選出され、10年広州アジア大会では優勝に貢献。現在は来年のロンドン五輪出場を目指している。爆発的なスピードと積極的なドリブル突破が持ち味。身長168センチ、体重65キロ。背番号23。







(鈴木友多)
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