2011年も残すところ、あとわずかとなりました。富山サンダーバーズのコーチとなって2年目の今季は、あと1勝の難しさを痛感させられたシーズンでした。前期、チームは残り3試合でマジック1となっており、地区優勝はもうすぐ目の前にありました。ところが、そのプレッシャーからか3連敗を喫し、最後は石川ミリオンスターズに逆転優勝を許してしまったのです。あと一歩の殻を破ることができなかった力の無さは否めません。とはいえ、開幕から5月中旬までは、なかなか白星を増やすことができず、苦しい戦いをしてきたチームです。それを考えれば、首位に浮上するまでの必死の追い上げは、評価できる点です。それはしっかりと全員が同じ方向で戦うことができたからに他なりません。チームの“結束力”は昨シーズンよりも着実に上がりました。
 しかし、全体的には他のチームと比べると、勝負どころでの弱さがありました。シーズン中、「ここはどうしても勝たなければならない」というポイントとなる試合がいくつか出てきます。強いチームは、そういう勝負どころでの試合を落としません。しかし、残念ながら今季の富山にはそれが不足していました。それを象徴したゲームがあります。6月15日の石川ミリオンスターズ戦です。

 初回、石川に2点を先制されたのですが、2回裏に石川のエース南和彰投手(神港学園高−福井工大−巨人−カルガリーバイパーズ)から1死満塁とチャンスをつくり、近藤琢磨(福知山成美高−大阪リゾート&スポーツ専門学校−京都ファイアーバーズ−明石RS)の三塁打で走者が一層、逆転に成功します。4回表に石川に3点を奪われて、一度は勝ち越しを許したものの、その裏に打者11人の猛攻で一挙に5点を奪って、再逆転。6回裏にダメ押しとなる1点を取ると、南投手はその回でマウンドを降りたのです。エースを打ち崩し、「奪われたら奪い返す」の展開でしたから、勢いは我々にあったと言ってもよかった試合でした。何よりも、これまで苦手としていた南から打線が大量得点を奪ったことが、チームとしては非常に大きかったのです。

 この時、富山は首位の座にありました。一方、石川は4連敗を喫しており、この試合を落とせば、優勝への望みはなくなり、さらに泥沼状態に陥る危険性がある状態でした。ですから、我々としては絶対に勝たなければいけなかったのです。ところが、3点リードで迎えた7回表、ホームランなどで4点を奪われ、1点を勝ち越されてしまいました。結局、この試合、そのまま9−10で負けたのです。そして、この試合で息を吹き返した石川は見事に逆転優勝を遂げました。せっかく南から大量点を奪い、2度も逆転したにもかかわらず、勝ち切ることができなかった。今季のチームを象徴したゲームだったと思います。

 さて、富山で3年目となる来季は監督に就任することになりました。これまで以上に勝負に対して強い意識を持たなければ、という重責を感じています。軸となるのは、やはり守備です。しっかり守り、相手に得点を与えない野球をしていきたいと思っています。そして前述したように、勝負どころで勝てるチームをつくりたいですね。そのためには、「ここが勝負どころ」という試合や場面、一球をかぎ分けることのできる鋭い嗅覚をもった選手を育成しなければいけません。

 また今季、他球団との差を感じたのは、真の意味での核となる選手がいなかったという点です。例えば、石川であればエースの南であり、福井では藤井宏海(福井高−ロッテ−三菱自動車岡崎)と織田一生(福井高−東北福祉大−TDK千曲川−TDK)のバッテリーです。彼らのような苦しい時に、チームの拠り所となるような選手の存在が、今季はいなかったのです。

 そこで来シーズン、その核として期待しているのが、杉山直久です。周知の通り、杉山は今シーズンまで阪神に在籍した本格派右腕です。2005年には9勝を挙げ、リーグ優勝に貢献しました。プロの第一線で先発としてローテーションを守った経験のあるピッチャーですから、それこそ勝負どころの嗅覚には優れています。その杉山から若いピッチャーが学ぶことは多いはずです。彼には後ろでドンと構えてもらい、「杉山につなげば勝てる」というような頼れる抑えの役割をしてもらいたいと思っています。もちろん、「ここは絶対に勝たなければならない」というような試合では先発を任せることもあるでしょう。いずれにしろ、NPBという日本最高峰のステージで戦ってきた杉山には大きな期待を寄せています。

 また、9日に行なわれたドラフト会議では、投手3名、内野手2名の計5名の選手を指名しました。中でも注目は、今シーズン、春のキャンプでの宣言通り、沢村賞に輝いた田中将大投手(東北楽天)の高校時代の後輩、菊池翔太(駒大苫小牧高−関東学院大)でしょう。甲子園での決勝という大舞台で登板した経験はもちろん、今春にはプロのスカウトが気にかけていたという話もあるほどの実力の持ち主です。実際、トライアウトで彼のピッチングを見ましたが、非常にボールに力があり、しっかりと腕が振れていました。多少、独特なテイクバックの仕方に修正の可能性は含むものの、スライダーのキレもよかったですし、まずは先発として他のピッチャーと競争してもらおうと思っています。そのほか、同じピッチャーの川畑広平(山梨学院大)は140キロ台の直球とフォークボールが持ち味。彼にはセットアッパーあるいは抑えを任せてみたいと考えています。内野手の青木将崇(全川崎クラブ)は下半身に課題はあるものの、リストが柔らかく、守備に期待できる選手です。

 今シーズン、安定感のあるピッチングでチームに貢献してくれた日名田城宏、田中孝次をはじめキャプテンを務めた町田一也など、約半数の選手がチームを去りました。そのため、来シーズンはほぼ一からのチームづくりとなります。その中で当然、目標は優勝ですが、たとえ負けたゲームでも観客に満足して球場を後にしてもらえるような野球ができるチームをつくりたいと思います。来季もぜひ、球場に足を運んでもらって、選手たちに大きな声援をお願いいたします!


進藤達哉(しんどう・たつや)プロフィール>:富山サンダーバーズ監督
1970年1月14日、富山県高岡市出身。高岡商では1年夏、3年夏に甲子園に出場。1988年、ドラフト外で大洋(現・横浜)に入団。5年目からレギュラーに定着し、98年の38年ぶりとなるリーグ優勝および日本一に大きく貢献した。97〜99年には3年連続でゴールデングラブ賞を獲得。01年、交換トレードでオリックスに移籍し、03年限りで現役を引退した。翌04年には横浜の内野守備コーチに就任。08〜09年は同球団でスカウトを務めた。2010年に富山の守備コーチとなり、12年からは監督として指揮を執る。
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