UFCの日本開催(2月26日、さいたまスーパーアリーナ)が近づいてきた。日本でUFCが開かれるのは2000年12月の「29」(ディファ有明)以来、実に約11年ぶりである。今回は日本人ファイターも多数参戦。カードも早くから発表されており、選手たちもコンディションづくりに余念がない。好勝負が期待できそうだ。
(写真:秋山ら日本人選手の戦いぶりにも注目が集まる)
 さて、過去にUFC日本大会は4度行なわれているが、私にとって、もっとも思い出深いのは、97年12月21日、横浜アリーナで開催された『UFC JAPAN』。これがUFC日本初上陸だった。

 97年といえば『PRIDE.1』が東京ドームで行なわれ、ヒクソン・グレイシー(ブラジル)が高田延彦に完勝。総合格闘技時代の扉が開かれた年である。その『PRIDE.1』の約2カ月後に、この『UFC JAPAN』が開催された。

 この大会のメインエベントは、UFCヘビー級タイトルマッチ、ランディ・クートゥアVSモーリス・スミス(ともに米国、クートゥアが2−1で判定勝ち)だったが、このカード以上にファンに興味を抱かせたのが、UFC-Jヘビー級トーナメントだった。このトーナメントに参加したのは4選手で、初戦のカードは次の通り。

▼タンク・アボット(米国)VS安生洋二(キングダム)
▼マーカス“コナン”シウヴェイラ(ブラジル)VS桜庭和志(キングダム)

 この時点で桜庭はUWFインターナショナルが改称した団体、キングダムの中堅選手に過ぎなかった。まだPRIDEのリングにも上がっておらず、知名度も高くなかった。むしろ、安生のほうがファンに知られる存在だったのである。だが、このトーナメントで桜庭は自身の存在を大きく誇示することになる。

 安生がアボットに判定で敗れた後、コナンVS桜庭戦が行なわれ、一度は桜庭が敗者となる。コナンがパンチを振るうのに合わせて、桜庭がカラダを沈めてタックルに入ろうとしたのを、レフェリーがダウンと見誤った。コナンの手が上げられ、結果が場内にコールされたが、桜庭陣営は納得がいかない。桜庭はオクタゴンの中央に座り込み、退場を拒んで執拗に抗議。結局は、主催者サイドがレフェリーの判断ミスと認め、数試合を挟んだ後に再戦をすることとなる。

 再戦は2試合後に行なわれ、その時には、このカードがトーナメントの決勝戦と変わっていた。安生に勝利したアボットが右拳骨折により、トーナメントを棄権したためである。

 場内に緊迫した空気が漂う中、試合はアッサリと決着した。
 3分42秒、腕ひしぎ十字固めで桜庭が勝利。この模様はライブではなかったが、日本テレビとよみうりテレビで後に放映されており、桜庭の名が一気に知られるようになったのである。

 この優勝により桜庭は『PRIDE.2』(98年1月、横浜アリーナ)に出場が決定。以降、PRIDEのトップファイターへの道を歩んでいったのである。「もし……」と考えてしまう。もし、最初の闘いで誤審により彼が敗者にされていたならば総合格闘技界に「桜庭時代」が訪れることはなかったかもしれない。いま振り返れば、あの座り込み抗議は意義のあるものだった。

 桜庭を育んだのは『PRIDE』のリングだろう。だが、桜庭がスターファイターとなる大きな契機となったのは『UFC』の舞台だった。
 今回、『UFC JAPAN』には、岡見勇信、秋山成勲、五味隆典ら日本勢8選手が出陣する。彼らは、この大舞台で、浮上、あるいは再浮上を目論む。好ファイトが続出し、それが日本の格闘技界再興のきっかけとなることを期待したい。
(写真:五味は対戦相手ジョージ・ソテロポロスの負傷により、光岡との日本人対決となる)

<UFC JAPAN対戦カード>
 2月26日、さいたまスーパーアリーナ、試合開始10:00 

▼ライト級タイトルマッチ
フランク・エドガー(王者・米国)VSベン・ヘンダーソン(挑戦者・米国)
▼ライトヘビー級ワンマッチ
ランペイジ・ジャクソン(米国)VSライアン・べイダー(米国)
▼ヘビー級ワンマッチ
マーク・ハント(ニュージーランド)VSシーク・コンゴ(フランス)
▼ウェルター級ワンマッチ
秋山成勲(チーム・クラウド)VSジェイク・シールズ(米国)
▼ミドル級ワンマッチ
岡見勇信(和術慧舟會東京本部)VSティム・ボウシュ(米国)
▼ライト級ワンマッチ
アンソニー・ペティス(米国)VSジョー・ローゾン(米国)
▼ライト級ワンマッチ
五味隆典(久我山ラスカルジム)VS光岡映二(フリー)
▼フェザー級ワンマッチ
日沖発(ALIVE)VSバート・パラゼウスキ(ポーランド)
▼バンタム級ワンマッチ
山本“KID”徳郁(KRAZY BEE)VSヴァウアン・リー(英国)
▼ミドル級ワンマッチ
福田力(GRABAKA)VSスティーブ・キャントウェル(米国)
▼バンタム級ワンマッチ
水垣偉弥(シューティングジム八景)VSクリス・カリアーゾ(米国)
▼フェザー級ワンマッチ
レオナルド・ガルシア(米国)VSジャン・タイクァン(中国・内モンゴル自治州)

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー〜小林繁物語〜』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』(汐文社)ほか。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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