欧州リーグにはないJの特異性と魅力

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 プロの選手と高校生。どちらがプレーヤーとして高いレベルにあるかはいうまでもない。だが、技量が下だからといって、見る者の胸を打つ熱量までもが劣るわけではない。というか、プロでさえかなわないほどの爆発的な感動を生むこともある。夏の甲子園準々決勝の県岐阜商対横浜。凄い試合だった。

 

 欧州のリーグとJリーグ。以前ほどではないとはいえ、いわゆる5大リーグのレベルがJよりも上に位置しているのは間違いない。正直、もはや純粋な“慣れ”のレベルにまで接近している部分もあるが、世界のトップクラスが集まる舞台の凄みは、依然として別格である。

 

 だが、リーグとしてのレベルが若干落ちるからといって、Jリーグが欧州リーグに比べて見る価値が低いわけではまったくない。むしろ、今年のJリーグには、欧州の多くの地域で味わえなくなってしまった興奮が、極上のレベルで用意されている。

 

 優勝争いの興奮、である。

 

 近年の欧州リーグでは、1強の独走か、せいぜい2強によるマッチレースというのが優勝争いの典型的なパターンとなっている。優勝候補とそうでないチームとの実力差、資金力の差は以前よりも確実に大きくなった。

 

 それだけに、終盤戦にさしかかってきたJ1の順位表は相当に異様である。

 

 なにしろ、首位から僅差で7チームがひしめきあい、毎節順位が入れ替わる。しかも、優勝経験がない京都が首位に立ったり、昇格2年目の町田が昨季同様に優勝争いを繰り広げている。こんな状況が出現する高レベルのリーグは、世界広しといえどもJリーグだけ、と断言したくなるほどだ。

 

 どんな強豪チームであっても、敵地での戦いは簡単なものではないというのが、サッカー界に長く受け継がれてきた常識だった。欧州ではその常識が消え去った、とまでは言わないが、パリSGが、バイエルンが敵地で勝利を収めるのは、以前よりは当然のことと受け止められるようになった。迎え撃つ弱者の側も、期待よりも祈りの成分が高くなってきているように思える。対策や闘志ではどうしようもないところまで、上下の格差は開いてしまった。

 

 Jは違う。先週末は、勝てば首位浮上だった柏が、敵地で昇格組の岡山に苦杯を喫した。亀のように守りを固めた相手に手を焼いた、という試合ではない。シュート数、決定機の数で完全に上回られての完敗だった。ブンデスリーガであればハイデンハイムあたりにバイエルンが白星を献上したようなもの。その週の一大トピックになっていたことは間違いない。

 

 だが、それほどの衝撃も日本ではさして騒ぎにならなかった。欧州に比べるとサッカーの浸透度が低いから、と捉えることもできるだろうが、わたしはむしろ、こうした番狂わせが頻繁に起こりうるJリーグの特異性、魅力を評価したい。

 

 いま、米国ではかつて大谷翔平がプレーした大会として、夏の甲子園に対する注目が高まってきているという。だとしたら、次から次へと新たな才能を輩出するJに対する関心が高まっていってもおかしくはない。

 

 欧州サッカーが好きで、でもJリーグをご覧にならないファンの方々。レベルが低い? スターがいない? それだけの理由でJを見ないの、ちょっともったいないですよ。

 

<この原稿は25年8月21日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>

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