9月からの親善試合で「自信」得たい森保

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 W杯カタール大会でドイツを倒したときは狂気した。まさか、W杯杯でドイツと戦い、逆転勝利を収める日が来るなんて! 信じられないものを見た。そんな気分だった。

 

 だが、より驚愕させられたのは翌年、ウォルフスブルクでの再戦と4-1の勝利だった。

 

 確かにカタールで日本は勝った。とはいえ、主導権はほとんどの時間帯でドイツに握られており、日本のみならず世界を驚かせた逆転劇は、ほぼ再現性がないもの――と多くの人が受け止めたはずである。

 

 つまり、まぐれ、だと。

 

 ところが、中立地のカタールで一方的に押し込まれた日本は、敵地で、復讐に舌なめずりしていたであろうドイツと、互角に近い形で渡り合った。

 

 ドイツ人からすれば、どれほどの衝撃だったことか。

 

 長いサッカーの歴史において、ドイツが思わぬ苦杯を喫したことは幾度となくある。78年は隣国オーストリアに主将のオウンゴールで敗れ、82年はアルジェリアに競り負けた。だが、こうした番狂わせが、サッカーの世界では時折起きうることも、ドイツ人はよく知っていた。大切なのは同じ失敗を繰り返さないこと、なのだ。

 

 ところが、油断を完全に排し、ひょっとしたらW杯カタール大会の時よりも勝利を確信するドイツ人が多かったかもしれない状況で、日本は4-1の勝利を収めた。ドイツ史上初めて、任期途中での監督解任が断行されたことが、彼らが被った衝撃の大きさを物語る。

 

 近い将来、3度ドイツと相まみえる時がきたとしよう。どんな結果が待っていようとも、試合に臨む日本人の心境が、W杯カタール大会の時とはずいぶん変わっているのは間違いない。日本人にとってのドイツは、手の届かい帝王ではなく、やり方次第では倒しうる相手、となった。

 

 W杯で優勝するということは、そうやって考えることのできる相手をどれだけ増やしていくか、である。国民が、選手が戦う前に「無理」と感じてしまう相手が多数いる国が、W杯の修羅場を勝ち抜けるはずもない。

 

 当然のことながら、劣等感をつぶしていくのには時間がかかる。4年に1度の歓喜と屈辱を積み重ねていくこと以外にW杯での脅えを消す手段はない。

 

 ただ、W杯には非情な一面もある。オランダは過去3回、W杯の決勝にコマを進めているが、いまだ戴冠はゼロ。優勝経験のある8カ国のうち、ブラジルを除く7カ国は、初の決勝進出で栄冠を勝ち取っている。W杯の女神は“一発ツモ”以外の上がりを認めたがらない傾向があるらしい。オランダしかり、チェコしかり、ハンガリーしかり。初の優勝を決める試合で敗北を喫し、その後王者になった国はブラジルだけ、なのだ。

 

 ちなみに、優勝経験のある8カ国のうち、5カ国は地元開催での初優勝。中立地で初優勝を遂げたブラジル、西ドイツ、スペインは、優勝経験のない国との決勝戦だった。

 

 次の自国開催がいつになるかわからず、そもそも開催できるかどうかも不透明な日本にとって、W杯の初優勝は簡単に手の届く頂ではない。それでも高みを目指すと公言している以上、9月からの親善試合は極めて重要な意味を持ってくる。

 

 勝敗はもちろん大切。だが、それ以上に重要なのは、戦ったあと、選手が「この相手にならば次は(も)勝てる」と確信できるか、だろう。自信は、手応えは短期間で一気に格差を埋める。選手たちはよく知っているはずだからである。

 

<この原稿は25年8月28日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>

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