渡辺剛は最大のチャンスを活かせるか
今の日本代表の強みに、層の厚さがある。
ケガ人が相次ぐセンターバック勢。長期離脱中の冨安健洋(無所属)、伊藤洋輝(バイエルン)に加えて今回のアメリカ遠征(日本時間7日メキシコ代表戦、10日アメリカ代表戦)では町田浩樹(ホッヘンハイム)、高井幸大(トッテナム)まで欠くことになった。特に町田は左膝前十字靭帯断裂の大ケガで北中米ワールドカップ出場も危ぶまれる状況となっている。また東アジアE-1選手権で活躍した安藤智哉(アビスパ福岡)もケガによって辞退。だがそんな緊急事態であっても、新たな台頭に期待感も漂う。
今回のメンバーでセンターバックを本職とするのは板倉滉(アヤックス)、渡辺剛(フェイエノールト)、荒木隼人(サンフレッチェ広島)、瀬古歩夢(ル・アーヴル)の4人。最大の注目株は渡辺だろう。186センチの長身を誇り、空中戦、対人に滅法強く、タフで安定感があるのも頼もしい。
2021年冬にFC東京からベルギーに渡り、昨季はヘントのクラブ年間MVPに選出されるほどの活躍を示した。そして今季は上田綺世もプレーするフェイエノールトに移籍。開幕からスタメンを張り、3試合で失点はわずか1。3連勝をマークして首位に貢献している。
勢いにも脂にも乗っている。森保ジャパンではわずかに4試合出場と出番が限られてきたが、ここで活躍できれば一気にスタメン定着の可能性があると言っていい。
28歳で訪れた大きなチャンス。遅咲きというよりも一歩ずつ確実にキャリアを積み上げてきた印象が強い。
FC東京U-15深川からU-18に昇格できずに、山梨学院大附属高に進学。身長が急激に伸びて高1でセンターバックへの転向を前向きに受け入れ、代名詞となるヘディングを鍛えたのは有名なエピソードである。高2で全国高校選手権の山梨県予選で勝てなかったときは悔しさを引きずることなく逆に力に変えた。そして翌年には全国の舞台を踏んでいる。
何があっても立ち止まることなく、前へ。それが渡辺のマインドだと理解している。
FC東京時代にインタビューした際、U-15からU-18に昇格できなかった当時の気持ちを尋ねると、彼はこう応じた。
「もちろん悔しい気持ちはありました。でも自分のなかでスンナリと受け入れて、次に対してすぐに気持ちを切り替えられていました。無理なものを追うよりも早く切り替えたほうが効率もいいし、手っ取り早い。起きたことよりも、次に起きることに対して準備しているつもり。これまでのサッカー人生を振り返ってみても、ずっとうまく続いてはいない。でもそのあと自分に反発力があるのは感じています」
早く切り替えたほうが効率もいいし、手っ取り早い――。
なかなかの名言である。
これはセンターバックに求められている要素とも言えまいか。失点しても、次に。負けても、次に。ダメージを受けたままでは守れるものも守れなくなってしまう。だからキャリアを通しても、1試合を通しても負の事象があっても彼は引きずることがない。
FC東京でレギュラーを張り、1年目の2019年に訪れたJ1初制覇のチャンスこそ逃がしたが翌年はYBCルヴァンカップ優勝に貢献。調子にムラがないから、チームとしても計算が立ちやすい。
ベルギーに渡ってからもそれは同じ。コルトレイク、ヘントでも絶対的な地位を築き、一歩ずつステップアップを確実に果たしてきた土台が、彼の強みになっている。
2021年に行なったインタビューでは最後に、どんな存在になりたいかを聞いてみた。
彼は言った。
「どっしり構えて、安心してもらえる選手ですかね。アイツが後ろにいるから、周りも(自分の役割に)専念できるって、そう思われたい」
日本代表でもそうなる日はきっと近い。アメリカ遠征が、その大きな一歩になると信じている。