球春が到来した。キャンプがスタートしたばかりのこの時期、眉間にシワを寄せたり、渋面をつくっている監督はまずいない。
 ところが、あと1週間もたつと険しい表情の監督が増えてくる。理想と現実のギャップを思い知るのだ。こうした傾向は新監督に、より顕著である。

 今季、一番の注目監督と言えば横浜DeNAベイスターズの中畑清だ。現役時代は「ヤッターマン」の愛称で親しまれた。

 中畑といえばカラオケだ。私も何度か同席したことがあるが、まるでワンマンショーだった。一度マイクを握ると最低でも5曲は歌いっぱなしなのだ。
 特に演歌は玄人はだしで千昌夫の「津軽平野」は惚れ惚れするほどうまかった。
 一度、趣味のカラオケについて訊ねると、こんなユニークな答えが返ってきた。
「オレ、風呂に入っても歌ってるよ。特に演歌の場合、スッとその詞の世界に入っていけるんだよ。情景とかも全部浮かんでくるんだな」

 飾らない人柄なため、アンチ巨人ファンの中にも「中畑だけは好き」という者が当時は結構、多かった。
 それが余程うれしかったのか、本人は満面の笑みを浮かべて、こう語った。
「それって最高の褒め言葉だと思うな。飲みに行っても“オレはジャイアンツのことは嫌いだけど、オマエは好きだよ”とか言われると“いやァ、どうも。もうちょっと飲んでくださいよ”ってつい言いたくなるもんね。ついでに“ボクの歌、1曲聞いてくださいよ”って。もう、その後はずっと聞かせっぱなしだけどね、ワッハッハッ」

 裏表がなく天真爛漫な性格は誰からも愛された。4年連続最下位のチームに新風を吹き込むには最適の指揮官と言えよう。
 気になるのは、いつまで前向きな“中畑節”が続くかだ。泣きたい時もあるだろうが、たとえカラ元気であっても明るく振る舞って欲しい。1年目の仕事は負け犬根性の一掃である。

<この原稿は2012年2月20日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

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