テキサス・レンジャーズのキャンプ地・アリゾナ州サプライズで、ダルビッシュ・フィーバーが起こっているという。現地の関係者によれば、「キャンプ地ではヒデオ・ノモがやってきて以来の騒動だ」とか。

 野茂英雄が海を渡ったのは、今から17年前のことだ。日本人メジャーリーガー第1号はサンフランシスコ・ジャイアンツで左の中継ぎとして活躍した村上雅則だが、彼の場合は期限付きトレード。安定した生活を捨て、退路を断ってMLBに挑戦したのは野茂が初めてだった。

 入札金、年俸(6年総額)合わせて約1億1170万ドル。ポスティングシステムでの史上最高額でレンジャースに入団したダルビッシュ有に対し、野茂は契約金約200万ドル、年俸は当時のレートで換算すると、わずか960万円に過ぎなかった。もし野茂が新人王や奪三振王に輝いたり、史上4人目となるア・ナ両リーグでのノーヒット・ノーランを達成していなければ、松坂大輔(ボストン・レッドソックス)やダルビッシュが目もくらむような大金を手にすることはなかっただろう。
 その意味では松坂もダルビッシュも野茂に足を向けて寝ることはできまい。まさにヒデオ・ノモこそはMLBのパイオニアなのだ。

 実はレンジャーズの本拠地、レンジャーズ・ボールパーク・イン・アーリントンのマウンドに初めて立った日本人も野茂なのだ。
 1995年のオールスターゲーム。このゲームは私も取材したのだが、試合後、テキサスの子供たちは皆、野茂のトルネード投法を真似していた。それくらいユニークなフォームに映ったのだろう。

 テキサスの夏は暑い。いや熱い、と言った方が正しい。ダルビッシュは力でねじ伏せるだけでなく、打たせて取る術も心得ている。灼熱のマウンドを支配できる日本人ピッチャーは彼くらいのものだろう。GMのジョン・ダニエルズに「この投資は安かった」と言わせるくらいの活躍を望みたい。

<この原稿は2012年3月19日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

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