昨季はセットアッパーの重要性が再確認されたシーズンだった。
 セ・リーグでは中日の浅尾拓也が79試合に登板し、7勝2敗10セーブ、45ホールドという好成績をあげ、MVPに輝いた。長い歴史を誇る日本プロ野球(NPB)で、セットアッパーがMVPに選ばれたのは、これが初めてのことだった。
 パ・リーグのセットアッパーで最も目立ったのは日本一になった福岡ソフトバンクのサウスポー森福允彦だ。60試合に登板し、4勝2敗1セーブ、34ホールドという数字を残した。

 森福がレギュラーシーズン以上に強烈な印象を残したのは中日との日本シリーズだ。ソフトバンクの1勝2敗で迎えた第4戦、2対1と1点のリードながら、先発のD・J・ホールトン(現巨人)は6回裏に無死満塁という絶体絶命のピンチを迎えた。
 ここで監督の秋山幸二はマウンドに森福を送る。「(抑えられるピッチャーは)他にいなかった」と言うのだから、信頼の大きさがうかがえよう。

 結論を述べれば、森福は小池正晃(現横浜)、平田良介、谷繁元信と3人の右バッターを三振、レフトフライ、ショートゴロに切って取る。「森福の11球」と呼ばれ、シリーズ史に残りそうな完璧な“火消し”だった。
「森福があそこで抑えたことが一番、シリーズの流れを決めたと思いますね」
 シリーズMVPに輝いたソフトバンクの小久保裕紀は第7戦後のヒーローインタビューでこう語った。
 大舞台での快投により、森福は一躍、全国区になった。昨年50個だったバレンタインデーのチョコレートが今年は200個に激増したというのだから、女性ファンのハートもしっかりつかんだようだ。

 見かけはチャラいが、神経は図太い。足が震えるようなマウンドでも、しっかりと自らに与えられた役割をやってのける。まさしく“必殺仕事人”だ。
 しかし、この仕事人、修羅場をしのぐ中継ぎ稼業から足を洗いたいと考えている。「先発をやってみたい」と本人も語っている。
 身長171センチ、体重65キロと小柄だが、社会人(シダックス)時代には9回無死までノーヒットノーランを続けたことがある。見た目は華奢だが、スタミナは豊富だ。
 昨オフ、ソフトバンクはホールトン、和田毅(オリオールズ)、杉内俊哉(巨人)とローテーション投手がごっそり抜けた。「ローテーションに入るならチャンス」との思いも、森福にはあるのだろう。

 個人的には近い将来、先発転向もなくはないと見ている。ただし、今季に限ってはどうか。馬原孝浩が右肩を手術し、長期離脱が確実になったことで、森福がクローザーに転向する可能性が高まってきたのだ。
 セットアッパーからクローザーへの転向はピッチャーにとっては“昇進”である。通算セーブのNPB記録(313セーブ)を持つ中日・岩瀬仁紀も、同じ道を歩んだ。この先、森福はどこへ向かうのか……。

<この原稿は2012年4月1日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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