昨季、イチローはメジャーリーグ11年目にして、初めてシーズン200安打の達成に失敗した。打率も2割7分2厘と3割を大幅に割り込んだ。
 しかし、それ以上に深刻だったのは出塁率である。3割1分という出塁率は規定打席に達したア・ナ両リーグ145人中121位なのだ。これではリードオフマン失格である。ちなみに両リーグでの出塁率トップはミゲル・カブレラ(タイガース)の4割4分8厘だった。

 メジャーリーグでは打者の能力を測る上で打率よりも出塁率の方が重視される。
 映画にもなった『マネーボール』の主人公ビリー・ビーン(アスレチックスGM)が出塁率重視の野球で2000年代前半、アスレチックスを強化することに成功して以降、この傾向はより顕著になった。

 イチローも、かつては出塁率の高い選手だった。メジャーリーグ年間最多安打となる262安打をマークした04年は4割1分4厘を記録している。
 04年に比べると昨季は1割以上、数字を落としているわけだから、一番、悔しい思いを味わっているのは当の本人だろう。

 こうした出塁率の低下も背景にあるのか、マリナーズのエリック・ウェッジ監督は今季、イチローを3番で起用すると言明している。
 この打順変更はイチローにとって吉と出るのか凶と出るのか。私は前者ではないかと期待している。

 理由は次の2つ。まず、ひとつは気分転換だ。3番を打つことで「シーズン200安打」の呪縛から解き放たれるのではないか。打順が変われば、これまで見えなかった景色が見えてくるかもしれない。

 次にイチローのポイントゲッターとしての能力の高さをあげたい。メジャーではリードオフマンに徹していたイチローだが、日本では3番も打っていた。ストライクゾーンを絞ってフルスイングすれば、メジャーでも20本以上のホームランを記録する力を秘めている。イチローのパワーを侮ってはいけない。

<この原稿は2012年3月26日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

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