いよいよ開幕まで約1カ月となりました。私にとっては初めてのシーズンですから、今から非常に楽しみです。福井ミラクルエレファンツでは3月1日から選手全員そろっての合同自主トレーニングを行なっています。選手たちはオフからしっかりと体をつくってきており、今シーズンへの強い思いが感じられます。今後は開幕に向けてオープン戦が行なわれます。そこでしっかりと自分たちをアピールして、レギュラーを目指してほしいと思っています。
 昨年、ミラクルエレファンツの監督就任の要請を受けたわけですが、実は以前から私にとってBCリーグは身近な存在でした。それは2年前まで茨城ゴールデンゴールズに所属しており、BCリーグの球団と交流試合をしていたからです。当時、若い選手が頑張っている姿を見て、独立リーグの存在は、NPBを目指す若い選手にチャンスを与える場として、非常に価値あるものだと感じていました。ですから、そのBCリーグで自分が指揮を執るというのは、非常に光栄な話でした。これまで指導者経験はありませんが、自分が現役時代に経験してきたことを伝えることで、選手たちの力になれれば、という思いで引き受けさせていただきました。

 しかし、実際に選手たちを指導し始めてみると、正直「本気でNPBを目指しているのかな?」と疑問に思うことが少なくありません。確かに、練習環境ひとつとっても、NPBと比べれば、雲泥の差です。しかし、今ある環境でできることはたくさんあるはずです。それをなぜやろうとしないのか……。BCリーグには、長く居続けられるわけではありません。数年、いや、1、2年が勝負といってもいいでしょう。そうであるならば、その短い期間、何を犠牲にしてもでも死にもの狂いで練習すべきです。現状に満足しているというのであれば別ですが、どの選手に聞いても「目標はNPB」と言う。そうであるならば、もっとがむしゃらになるべきです。そうしなければ、NPBにはとても到達することなどできません。

 秋には全員で嬉し涙を!

 今シーズンのチームスローガン「思考」には、選手たちが自分は何のためにここにいるのか、自分の目指すべきものは何なのか、そしてそのためには何をすべきなのかを考えて野球をしてほしいという思いが込められています。それはNPBでも同じなのです。一軍から二軍まで、大勢の選手がひしめき合う中、各選手に専任のコーチをつけるわけにはいきません。ですから、自分で考えてトレーニングをしたり、質問をしに行ったりと、自主的に行動しなければ、誰も助けてはくれないのです。BCリーグでも20〜30人ほど選手がいる中、指導者はわずか3人ほどで、とてもつきっきりで指導することはできません。ですから、自らが行動を移さなければ、成長することなどできないのです。だからこそ、自分で「考える」ことが不可欠なのです。

 とはいえ、「正解を出しなさない」と言っているわけではありません。エレファンツの選手たちが最初、誤解していたのがそのことでした。私が何か質問しても、「きちんとした答えを言わなくてはいけない」と考えてしまうあまり、全く答えが出てこなかったのです。それでは選手が何を求めているのか、何をやりたいのか、全くわかりません。ですから、選手には「思ったままを話してほしい」と伝えました。最初はなかなか話すことができずにいた選手たちも、徐々にそのままの思いを伝えてくれるようになりました。これもまた、チームづくりの一歩と言えるのではないかと思っています。

 さて、最大の目標は優勝であることはもちろんなのですが、ぜひ最後はチーム全員で嬉し涙を流したいと思っています。長丁場であるシーズン中、苦しいこともたくさんあるでしょう。それをチーム全員で一緒に乗り越えることができれば、目標を達成した際に自然と涙が出てくるはずです。そういうチームの一体感を築き上げることができれば、結果もついてくると思っています。そして勝つことこそが、ファンへの一番の恩返し。「また観に来たいな」と思ってもらえるような熱いプレーで、優勝を目指したいと思います!

酒井忠晴(さかい・ただはる)プロフィール>:福井ミラクルエレファンツ監督
1970年6月21日、埼玉県出身。修徳高校では3年時にエースとして活躍し、主将も務めた。89年、ドラフト5位で中日に入団。プロ入り後は内野手として一軍に定着した。95年、交換トレードで千葉ロッテに移籍し、三塁手、二塁手のレギュラーとして活躍した。2003年、再び交換トレードで中日に復帰したが、その年限りで自由契約に。合同トライアウトを受け、東北楽天に移籍した。05年限りで引退したが、07年からは茨城ゴールデンゴールズでプレーした。今シーズン、福井ミラクルエレファンツの監督に就任した。
◎バックナンバーはこちらから