U-23日本代表が14日のアジア最終予選最終戦(対バーレーン)に勝利し、ロンドン五輪出場権を獲得しました。まずは世界の強豪と戦う権利を得られたことに安心しました。7カ月に及ぶ厳しい予選を戦い抜いた選手、スタッフには、おめでとうと言いたいですね。アジアの国々との戦いで、日本は確実にレベルアップしたと思います。特に最終戦では、ディフェンス面においての成長が見られました。
 試合は日本が前半からボールを支配していたものの、なかなか攻撃でいいかたちをつくれないでいました。しかし、チームのバランスが崩れることはありませんでした。それは、守りが安定していたからです。相手選手がボールを持った時に、最も近い選手がファーストアプローチをかけ、サイドに追い込む。その上で複数人で囲み、ボールを奪う。こういったやり方をチームで統一し、連動し、組織立った守りを実践できていました。この安定した守りが、後半の2ゴールにつながったといえるでしょう。

 オフェンスが停滞した要因は、横パスが多く、ゴールへ向かうスピード感がなかったからです。横パスをつなげばボール支配率は高まりますが、それだけでは相手は怖くありません。縦に速いパスを2度、3度入れれば、相手の守備陣は「次は横なのか、縦なのか」とプレスをかける的を絞りにくくなります。横パスをつなぐスローペースから、速い縦パスを入れて攻撃のスピードを上げる。逆に、縦パスを警戒されている時は横パスやサイドチェンジで相手の目先を変える。五輪に向けて横と縦のパスをうまく組み合わせる意識を高めていってほしいですね。

 五輪へさらなる成熟を

 その五輪では、これまでのアジアとの戦いが対世界に変わります。欧米やアフリカの選手は技術はもちろん、高さやスピード、パワーも優れています。かといって、相手によって日本のサッカーを変える必要はないでしょう。むしろ、今やっている細かいパスワークからの攻撃と、組織だった守備の精度を上げていくべきです。

 高さや速さで勝る相手との戦いにおいて、攻撃面では相手につかまらないことが重要です。ボールポゼッションを高めながら、先述した縦への速いパスをうまく使い、攻撃に緩急をつけることが求められます。パスをつなぐことも重要ですが、ボールを奪ってから、いかに少ない手順でゴールを奪うか。この点を追求していく必要があるでしょう。

 守備については、まずはバーレーン戦のようにボールの奪い方を徹底しながら、パスの出所をつぶすこと。そしてルーズボールをいかにマイボールにできるかがカギです。相手の前線の選手にパスやロングボールを放り込まれた時は、ファーストボールで競り負けても、セカンドボールを拾えればピンチを回避できます。前回も書いたように、ルーズボールについてはピッチ外へクリアするのか、パスをつなぐのかなど、チーム全体で素早い判断をして連動する必要があります。クリアボールの質も続けて追求していくべきでしょう。

 そして、五輪へ必ず議論になるのが、オーバーエイジ(OA)枠の活用です。経験のある選手をチームに加えるべきか否か。結論から言うと、私はOA枠は必要ないと思います。というのも、五輪世代の選手たちには何より経験が必要です。権田修一(FC東京)や原口元気(浦和)ら今回の中心メンバーは、U-20W杯の出場権を逃し、世界大会を経験したことがありません。今の五輪世代の選手たちが、将来のA代表を背負っていきます。やっと掴んだ世界との戦いで、OAに「頼る」のではなく、自分たちの実力で「切り開く」ことが、後のサッカー人生で大きな財産になります。自信は経験を積まないと生まれてこないものです。もし、3人あるOA枠をすべて使えば、五輪に行けるU-23の選手は15人に減ってしまいます。ひとりでも多くの選手が世界を体感するためにも、OA枠の活用は避けてほしいところですね。

 OA枠を使わないといっても、予選を戦ったメンバーがそのまま五輪にいけるわけではありません。彼らはまだ日本という「チーム」の出場権を確保したにすぎないからです。今後は宮市亮(ボルトン)や宇佐美貴史(バイエルン)などの海外組、その他の国内組も含め、本戦の18人の出場枠を争うことになります。個人のロンドン行きの切符を獲得するには所属クラブでのアピールが不可欠です。今後、U-23世代の選手たちは、今まで以上にモチベーションを高く持って練習、試合に臨むでしょう。関塚隆監督はバーレーン戦後に「OAについてはこれから考える」と言っていました。関塚監督が本番でOA枠を使うかどうかは読めません。各選手たちには、関塚監督に「OAなんて必要ない!」と思わせる活躍を見せて欲しいですね。

 鹿島は戦い方を統一せよ

 今月はJリーグの2012シーズンも幕を開けました。すでに3試合を終えたわけですが、J2から復帰したFC東京が開幕3連勝を飾り、昨季の柏レイソルを彷彿とさせる躍進を見せています。監督が変わり、大黒柱だった今野泰幸(G大阪)も移籍して序盤は苦戦すると見ていただけに正直、驚きの結果です。ただ、まだ3試合。この強さが勢いなのか、真の実力なのか。今後の戦いを注目しましょう。

 一方で、鹿島アントラーズはクラブ史上初の開幕3連敗と苦しんでいます。この状況にはクラブOBとしてショックを受けています。私は今季の鹿島はジョルジーニョ監督になり、タテに速いサッカーに生まれかわると書いてきました。ところが、今の鹿島は新しいスタイルに生まれ変わる以前の根本的な問題を抱えています。何より、パスを回せていないのです。パスを出す選手とそれを受ける周りの動きが連動しておらず、以前のようなスムーズなパスワークが消えてしまっています。これが、3試合連続無得点という異常事態を生み出している大きな要因でしょう。昨季とは選手も変わっているだけに、連携面では時間がかかるのはやむを得ません。ただ、心配なのはどんなサッカーを目指しているのかが、選手間で統一されていないように映ることです。

 では、どのような手を打てばよいのか。私はむやみやたらに選手を入れ替えるのではなく、ある程度、布陣を固定し、選手間の考え方を擦り合わせるべきだと考えます。開幕3試合を振り返ると、後ろの選手が飛び出し、攻撃に絡むシーンも多く見られました。しかし、これは狙った動きではありません。各選手がバラバラに動いた結果、偶然いいかたちになったにすぎません。まずボールを持ったら、周りの選手が素早くスペースに動き出したり、パスコースをつくることが求められます。パスの出し手も、ただスペースに蹴るのではなく、時には長い距離を走った選手をおとりに使うなど、攻撃の緩急をコントロールする必要があります。ここは攻撃のスピードを上げるのか、それともペースダウンするのか。受け手と出し手が同じ考え、方向性で動かないと、以前の流れるような攻撃は繰り出せません。

 守備においては、岩政大樹と中田浩二のセンターバックコンビがあまり機能していませんね。それは、岩政も中田もボールを奪いに行くスタイルが強い選手だからです。センターバックには岩政のようにボールにチャレンジする選手と、それをカバーできるスピードのある選手の組合せがいいと感じます。ただ、スピードのある選手といっても、すぐに名前が挙がらないのが今の鹿島の弱みです。サテライトリーグが休止されている今、若手選手を伸ばすにはリーグ戦やナビスコ杯で使うしかありません。チームの成熟を進める中で、鈴木隆雅や昌子源などの若手DFに経験を積ませることも視野に入れてほしいですね。

 今季は鹿島以外にもガンバ大阪が公式戦5連敗、横浜Fマリノスが3試合でわずかに勝ち点1と、Jリーグ創設以来の強豪クラブが出だしでつまづいています。このまま調子を取り戻せない状態が続くと、J2降格という最悪の事態も招きかねません。実力はあるだけに、早くチームとしてのコンセプトを固め、それを徹底してほしいと思っています。いつか鹿島と水戸ホーリーホックとの“茨城ダービー”の実現を願っていますが、その舞台はJ1であってほしいものです。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
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