日本、プレス修正でブラジルA代表に初白星 ~キリンチャレンジカップ2025~
サッカー・日本代表(FIFAランキング19位)対ブラジル代表(同6位)戦が14日、東京スタジアム(味の素スタジアム)で行なわれ、3対2で日本が勝利した。日本は前半に2失点を喫したものの、後半にMF南野拓実(モナコ)、MF中村敬斗(ランス)、FW上田綺世(フェイエノールト)の得点で、逆転勝利を収めた。これまで日本はブラジルに対し、2分け11敗だったが初白星をあげた。
ブラジル・フル代表に初勝利(味スタ)
日本代表 3-2 ブラジル代表
【得点】
[ブ] パウロ・ヒエンキ(26分)、ガブリエル・マルティネッリ(32分)
[日] 南野拓実(52分)、中村敬斗(62分)、上田綺世(71分)
キックオフ前、肌寒さを感じさせたこの日の味の素スタジアム。試合が終わる頃、この会場は4万4920人の熱気に包まれた。
森保一監督率いる日本代表は前半、“サッカー王国”ブラジルを相手に、ミドルブロックを敷く戦い方を選んだ。相手の2センターバックがボールを保持しても、ハーフウェイラインを超えるまでプレスをかけることはなかった。
相手陣地でカナリア軍団のセンターバックにプレスをかける条件はハッキリしていた。ワントップを張る上田が、相手の2センターバックの片方を追いつつ、4-3-3の中盤の底(アンカー)をひとりで担うMFカゼミーロへのパスコースを消せている時のみ、前線からのプレスが発動した。4分のシーンが、その典型だったように思う。上田がカゼミーロへのパスコースを消しながら、相手の右センターバックへプレスをかける。すると、それを合図に相手の左センターバックにはMF久保建英(レアル・ソシエダ)が詰めかける。さらに、右ウイングバックの堂安律(フランクフルト)が相手左サイドバックに圧力をかけた。
前半は、これらの条件がそろって前線からプレスを発動させた。0対2となった32分以降、戦い方を変えるかと思ったが、まずは大きく変えなかった。
ハーフタイムの間に、日本は前線からのプレッシングを修正した。相手の2センターバックに対して、2列目に入った選手がプレスをかけるようになった。
その典型が日本の1点目だった。本来ならば右ウイングバックの堂安が流れの関係で中央へ。それにともない久保が右ウイングバックの位置にいた。それに押し出されるように2列目左シャドーにポジションを移した上田が、相手ペナルティーエリア内でDFに猛プレス。これが相手CBのパスミスを誘う。南野がペナルティーエリア内左で悠々とパスカットに成功し、右足一閃。シュートはゴール左に突き刺さり、日本が1点を返した。
実は、このシーン。相手のミスに見えるものの、日本が戦術的に意図した形だった。10番を背負う堂安はこう述べた。
「ハーフタイム、多少戦術を変えて、昨日僕が使った言葉でいうと“殴りに行った”(前線からプレスをかける意味)結果、逆転できたのでサッカーはわからない。チームにとっても勢いがついた。雰囲気的に”いけるんじゃないか”と思わせたゴールだった。一見、相手のミスに見えますが、その中には戦術的な意図があった」
プレッシングのかけ方が奏功した日本は、流れをつかみ2点目を奪った。右ウイングバックの堂安から後半途中、右シャドーに入ったMF伊東純也(ヘンク)へ。伊東は冷静にファーサイドへクロスを送ると、左ウイングバックの中村がダイレクトの右足ボレー。シュートはカバーに入った相手DFの足をはじき見事、ゴールネットを揺らした。
仕上げは、日本のプレスのカギを握っていた上田だった。26分、右コーナーキックをファーサイドで合わせる際、上田はDFの死角から前に入って頭で合わせ、相手GKのセーブを弾き飛ばして逆転弾を決めた。フェイエノールトで公式戦8戦8発の好調さをここでも見せつけた。
逆転弾を決めつつ、プレスのキーマンとなり続けている上田は「僕らが主体的に“後半、こうしよう”って言って実行したことが勢いづいた理由」と強調した。
プレスのかけ方の緩急について、堂安の説明はこうだった。
「戦術的に前半はブラジルを相手にミドルブロックを敷いて戦ったので、体力は温存できていました。だから、後半逆転できた。これまでの第2次(森保)体制は主体的に、というスタイルで前半からガンガンプレスをかけて、後半エネルギー不足になっていた。どちらかと言うと今日は後半からエネルギーを入れた」
ちなみに堂安は、「これは冗談ですよ」と前置きして、強豪相手にビハインドの展開で試合を折り返すことを、「僕たちの間では“戦術カタール”と言っている(笑)」。そして「(前半終了時点で)0対1だったら、(強豪相手でも)大丈夫。2失点したらW杯ではダメだと思う。2失点目は余計だった」と気を引き締めた。
前半の戦いぶりもスタミナ温存ための計算に入っていたようだ。客観的に観ればサッカー王国・ブラジルからの歴史的勝利ではある。しかし、選手は皆「本番はW杯」「きょうの相手はW杯本番のテンション感だったかわからない」と勝って兜の緒を締めていた。
ここがまだ、このチームのピークでないことを切に祈り、見届けたい。
(文/大木雄貴)