今季、新指揮官である高津臣吾プレーイングマネジャーの下にスタートした新潟アルビレックスBCは、9日現在、5勝3敗と首位・群馬ダイヤモンドペガサスと1ゲーム差の上信越地区2位となっています。開幕では昨季王者の石川ミリオンスターズに連敗を喫しましたが、既存選手や打線の奮闘もあり、序盤としてはまずまずと言ったところでしょう。
 とはいえ、投手陣はまだまだ底上げが必要です。NPBへ行った正田樹(東京ヤクルト)、雨宮敬、渡辺貴洋(ともに巨人)の3人に加え、高津監督もプレーイングマネジャーとはいえ、プレーヤーよりも指揮官に大きな比重を置いていますから、実質的には4人の穴をどう埋めるかが、今季の最大の課題となっています。そんな中、現在の主戦は寺田哲也(作新学院高−作新学院大)と阿部拳人(中越高−新潟証券)の先発2本柱と、高津監督の後釜として抑えにまわった間曽晃平(横浜商業高−神奈川大)の3人です。

 現在、リーグトップの3勝を挙げている寺田は、もともとコントロールのいいピッチャーです。しかし、昨季はオープン戦までは好調だったのですが、シーズン序盤に股関節を痛めてしまいました。全力で走ることもままならない状態でのピッチングは、やはりフォームが崩れ、持ち味であるはずのコントロールを安定させることができなかったのです。結局、最後までケガによる不調から脱することができず、6勝6敗、防御率3.87という成績に終わりました。

 寺田にとっても不本意なシーズンとなってしまったことでしょう。彼は同じ轍を踏まないようにと、シーズン後、「自分はどういうピッチングをし、どう打者と対戦すべきなのか」ということを、じっくりと考えたようです。そして、出た結論は「低めにボールを集めて、ゴロを打たせて取ることが自分にとって最も大事なこと」というものでした。そして、そういうピッチングを目指したトレーニングをオフの間にしっかりとやってきたのです。今季の寺田は、細かくコースを狙うというよりも、ボールの高さに徹底したこだわりを見せ、とにかく低め、低め、いわゆる“ゴロゾーン”に投げています。

 そして、寺田の成長はもう一つあります。それは入団後に覚えたシュートとチェンジアップの精度が上がったことです。そのため、これまでの右打者にはスライダーで内から外へ、左打者には真っ直ぐで外角攻めというパターン以外に、右打者にはシュートで、左打者にはチェンジアップで内角を突く攻めができるようになり、ピッチングの幅が広がったのです。そして、シュートやチェンジアップを使うことによって、スライダーや真っ直ぐがよりいきるようになりました。こうした成長が、現在の好投につながっているのです。

 強まる絶対的な武器の必要性

 一方、阿部はコントロールがよくなり、昨季よりも安定感が出てきました。オフにコロンビアリーグで活躍したことも自信になっているのでしょう。現在は3試合に登板して2勝1敗、防御率2.66。初勝利を挙げた4月28日には、現在チーム打率(2割8分6厘)がリーグトップの石川に対し、8回途中まで無失点に封じる好投を見せてくれました。

 しかし、一つ、気になる点があります。昨季の阿部には決め球のフォークボールがありました。粗削りながら落差があり、いい時にはフォークとわかっていても、打者は前に飛ばすことさえできないほど、手元でストーンと落ちる素晴らしいフォークで、真っ直ぐと同じ腕の振りからきますので、三振を取りたい時などには非常に有効でした。ただ、制球が定まらないということが難点であったため、阿部本人とも「このボールでカウントを取れたら」という話をしていました。

 するとコロンビアから帰国後、阿部のフォークはほとんどがベース付近にいくようになっていたものの、代わりに落差がなくなってしまっていました。おそらく、オフにカウントを取れるように練習したのでしょう。そのために、昨季は思い切り投げていたのが、本人も気づかないうちにコントロールを重視した腕の振りになってしまっているのだと思います。落差がないために、甘く入り、逆に打ちやすいボールとなってしまっているのです。

3試合(20回1/3)で26本と被安打数が多くなっているのは、それが一つの要因でもあります。調子がいい今は、直球とスライダーで抑えられていますが、それだけで1年間通用するほど、このリーグは甘くはありません。特にこれから疲労が蓄積する夏場に向け、どうしても決め球のフォークが必要となってくると思います。もちろん、それを本人に言うのは簡単です。しかし、やはり自主的に取り組むからこそ、力になるはず。阿部自身がフォークの必要性を感じてほしいのです。橋上秀樹前監督の教えを1年間、学んできた阿部ですから、きっと自分には何が必要なのかを考え、気づいてくれることでしょう。

 昨季、セットアッパーとしてリーグトップの防御率1.65をマークし、球団初の地区優勝に大きく貢献した間曽は、クローザーとなった今季も安定感は抜群。現在は5試合に登板し、2セーブをマーク。防御率は1.69を誇っています。とはいえ、彼にはこれで満足しては欲しくありません。彼が目指すべきところは、もっと高く、しいて言えば、BCリーグは通過点であるはずです。しかし、さらなる上のレベルにいくには、やはり絶対的に武器となる決め球が不可欠です。現在の間曽には最速142キロの直球と、キレのあるスライダーがあります。これらは、BCリーグでは十分に通用しますが、より上のレベルでは“普通”になってしまうのです。スピードで勝負できないのであれば、落ちる系のボールや緩急を使うなどして、打者の視点をかく乱させることが必要です。阿部同様、間曽にも、このことに気づいてほしいと思っています。

“大化け”確信の18歳投手

 さて、新人投手はまだまだ力不足は否めないものの、将来性のある投手の一人として挙げたいのが、猪俣卓也です。彼は今年3月に県内の北越高校を卒業した18歳。身長180センチ、体重84キロという体格のよさもさることながら、何よりも野球に対する姿勢が素晴らしいのです。例えば、日々の練習において、ブルペンでのピッチングは、投手にとって最も濃い時間を過ごす場所です。そこでの取り組みが非常に重要となるわけですが、ブルペンでの猪俣を見ていると、単に投げているだけではなく、自分なりにテーマをもって投げていることがひと目でわかります。実際、僕が突然質問しても、迷うことなく、猪俣は「今日はこういうことを課題にして投げています」と即座に答えが返ってくるのです。

 また、試合でも前回の試合で浮き彫りとなった課題をきちんと修正して臨み、結果を出すのです。今はまだ真っ直ぐは130キロ台前半ですが、これまでの上体の力に頼ったフォームから、下半身を使ったフォームへと移行しつつありますので、自ずとスピードは上がるはずです。とにかく、今の野球への姿勢さえ崩さなければ、1、2年後、彼は必ずや大化けする投手だと確信しています。ぜひ、これからの猪俣の成長を楽しみにしていてください。

 そして、即戦力として期待しているのが、台湾出身のサウスポー郭恆孝(福岡第一高−日本経済大)です。直球は最速140キロ台半ばなのですが、このボールが実に素晴らしいのです。内海哲也投手(巨人)のようなクセのないスマートなフォームなのですが、投げる球は内海投手のような“キレ”ではなく、まさに“威力”。同じサウスポーで例えれば、山口鉄也投手(巨人)のような、ズドーンと、ボールが大きくなって向かってくるようなボールなのです。内海投手のフォームから、山口投手のようなボールが投げ込まれるわけですから、正直、実力はBCリーグのはるか上です。

 しかし、大学4年時に左ヒジを痛めてしまい、1年以上、投げることができていません。今春のキャンプでも、まだ投げられる状態にはありませんでしたから、とにかく走らせました。ようやく4月下旬頃にはキャッチボールができるようになり、現在はブルペンで投げられるようにまで回復しています。早く皆さんの前に披露したいのですが、焦ってケガを再発させてはいけません。また、試合には1年以上投げていませんから、最初は中継ぎで短いイニングで実戦感覚を取り戻し、後期には先発の柱としてチームに貢献してくれたらと思っています。

“底上げ”が優勝の必須条件

 さて、新指揮官に就任された高津監督ですが、就任時から口にされていた“伸び伸び野球”を実践されています。例えば、バントのサインがほとんどなく、どんどん打たせていることもその一環でしょう。特に今季の主軸はパワーヒッターがそろっていることもあり、「よし、オマエにはホームランのサインだ!」と選手たちの気持ちを乗せていくのです。もちろん、勝利には非常にこだわりを持っていらっしゃる方ですが、その中でも「野球の楽しさを感じながらプレーしてほしい」という思いがあふれた采配をされています。

 また、まだ力不足の選手たちにもチャンスを与えてくれます。というのも、投手で言えば、「ブルペンでの100球よりも、ゲームでの1球が大事」という考えを持たれているからです。たとえ1球だけでも、実戦のマウンドで投げることで、得るものはあるはず。それまで練習してきたことができれば自信につながるでしょうし、できなければ今後の課題を見つけることができるからです。

 今季、新潟が優勝し、プレーオフ進出、そしてチャンピオンの座にのぼり詰めるには、新人選手の底上げが絶対的条件になると見ています。特に投手陣には、その必要性を強く感じています。ですから、指揮官に新人投手を積極的に起用してもらえているのは、投手コーチとして非常にありがたいのです。また、打線が好調で大量得点を奪ってくれるからこそ、高津監督も新人投手にチャンスを与えやすいということもあると思います。こうしたチームからの援護に投手陣もしっかりと応えていかなければなりません。彼らが少しでも早く成長し、戦力となれるよう、投手コーチの僕自身も精一杯のサポートをしていきたいと思います。

中山大(なかやま・たかし)プロフィール>:新潟アルビレックスBCコーチ
1980年7月13日、新潟県生まれ。新潟江南高校、新潟大学出身。大学時代は1年時から左腕エースとして活躍。卒業後はバイタルネットに入社し、硬式野球部に所属した。リーグ初年度の2007年、新潟アルビレックスBCの球団職員となる。翌年、現役復帰し、同球団の貴重な左腕として活躍。1年目には先発の柱として9勝、リーグ4位の115奪三振をマークし、球団初となる前期優勝に大きく貢献した。09年限りで現役引退し、10年より投手コーチに就任した。
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