二宮: 宮下さんは鹿児島県の出身。肝臓はかなり強そうですね(笑)。お酒を楽しむのは週に何回?
宮下: 正直に言うと、ほぼ毎晩飲んでいます(笑)。寝る前に必ず。飲むのはもちろん焼酎です。お酒を飲むと、どこかホッとするんですね。

二宮: アハハハ。その話を聞いただけで、相当イケるクチだとわかりました。
宮下: 親父も好きで、その血を受け継いだのかなと思います。親父とは、よく実家で一緒に飲むんですが、お湯の焼酎割りをつくるとパーッと香りが立つ。この香りがたまらなく好きなんですよ。

二宮: そんな焼酎好きの宮下さんには、今回、そば焼酎の長期貯蔵酒「那由多(なゆた)の刻(とき)」をご用意しました。飲み方はどうしましょうか?
宮下: 最初はロックでお願いします。まずは焼酎そのものを、じっくり味わいたいですね。ゴクッとのどで楽しみます(笑)。

二宮: 語りますね(笑)。現役時代から、かなり飲む機会は多かったのですか?
宮下: やはり現役時代は次の日に朝練があったりするので、必ずしも毎日飲んでいたわけでありません。ただ、日曜日が練習休みというパターンが多いので、土曜日の午後の練習後が唯一、羽を伸ばせる(笑)。だから、土曜の夜はだいたい飲み会です。「もう今日は楽しんで飲もう。水泳の話はやめよう」と(笑)。

二宮: 苦しい練習が続くなか、それが楽しみだったと?
宮下: そうです。19時くらいからスタートして、ずっと飲んでいると、夜中になった頃には、なぜか水泳の話をしている。「あの選手のあの泳ぎはすごい」とか「あの選手はこうやって手をかいている」とか……。お酒が入るほうが、かえって深い技術論を語り合っているんです。

二宮: やはり、それだけ、みんな競泳が好きなんでしょうね。
宮下: それは実感しましたね。競技に対する意識が高かった。いい仲間、戦友にめぐり合えたことは大きかったと思っています。

 目標をクリアしないと丸坊主!?

二宮: 宮下さんといえば、やはり4年前の北京五輪、400メートルメドレーリレーでの銅メダルを思い出します。
宮下: もう4年経つのかという感じですね。時の流れは早いものです。

二宮: 競泳の場合、五輪の選考会は一発勝負です。どんなに実績があっても選考会の日本選手権で記録を出さないと出場権は得られません。
宮下: 僕は、その前のアテネ五輪の選考会では3位で出場を逃しました。4年間のすべてが、わずか1分のレースで決まる。今から振り返ると大変なことをやっていたんだなと感じます。

二宮: いくら、いい練習を積んでもケガや体調を崩したら、泣くに泣けないですよね。
宮下: 僕の同級生には、当日の朝、お腹を壊してしまってレースに出られなかった選手もいます。おそらくプレッシャーもあって、胃にきたんでしょうね。一緒に頑張ってきただけに、本当にいたたまれない気持ちになりました。

二宮: 念願の五輪の舞台はどうでしたか?
宮下: しびれましたね。でも、唯一楽しめた大会と言えるかもしれません。それまでの世界選手権や国際大会では、結果を残さなくてはいけないというプレッシャーが強かったんです。それで失敗することも多かった。ところが、オリンピックだけは終わった後に「また泳ぎたい」という気持ちになりましたから。オリンピックは集大成なので、余計なことを考える必要がなかったのが、好結果につながったと思います。

二宮: メドレーリレーでは、それぞれのメンバーが目標タイムを設定して、それがクリアできなかったら丸坊主という約束をしていたとか。
宮下: それは本当です。北島康介さんが決勝に残るために、それぞれノルマを設定しました。それで「何秒で泳げ。じゃなきゃ坊主だな」と。ただ、言い出した康介さんの髪型は、ほぼ坊主だったんですよ(苦笑)。

二宮: アハハハ。もう失うものがない(笑)。
宮下: 本人は「いや、まだ前髪が残っている」って言っていましたけどね(笑)。それで予選では僕とバタフライの藤井(拓郎)君は目標はクリアしたのですが、自由形の佐藤(久佳)君は調子が悪くて、ひとりだけ設定タイムを上回れなかった。藤井君とは同部屋で、「坊主にすると言っても、まさかやらないよね」と話していたら、決勝当日、本当に佐藤君が頭をツルツルッに丸めてきました(笑)。

二宮: 素朴な疑問ですが、競泳選手にはレース前に体毛を剃る人が多いですね。実際に体の抵抗が小さくなって速くなる効果はあるのでしょうか?
宮下: 体毛ではそんなに変わらないと思いますよ。むしろ精神的なものが大きいですね。僕も2006年のアジア大会、50メートルで勝てなかった時に「毛を剃らないから負けた」と言われたことがあります。それで実際に剃ると100メートルでは金メダル。以来、レース前には願掛けの一種で剃るようにしていました。確かに毛を剃ると、入水した時に水がスーッと体の上を流れていく感じがします。泳いでいて気持ちいい。だからといって、100分の1秒でもタイムが縮むかといったら、それは分かりません。

 明暗を分けた引き継ぎの差

二宮: 決勝のレースでは第1泳者の宮下さんが4位で北島選手に引き継ぎ、責任を果たしました。それから最後の自由形が終わるまでの心境は?
宮下: ドキドキしました。先程、話したように佐藤君の調子がよくなかったので、最後の最後で抜かれるんじゃないかと心配しながら見ていました。後で映像を見ると、まだ余裕があるように映りますが、タイム差を計算すると4位のロシアとは各泳者の引き継ぎ時間の差しかなかったんです。

二宮: この大会、日本は陸上でも4×100メートルリレーで銅メダルを獲得しました。勝因はバトンの受け渡しの技術にありました。競泳の場合も引き継ぎの練習を繰り返していたそうですね。
宮下: はい。レース前にサブプールで引き継ぎの練習をしていたのは日本くらいのものでした。リレーのメンバーはその時の調子で決めるので、オリンピック前には誰が選ばれてもいいように練習していましたね。たとえば僕と康介さんの引継ぎだけではなく、同じく背泳ぎの森田智己と康介さんの引継ぎも練習しました。あらゆる組み合わせを想定して、全パターンを合同合宿では試していたんです。

二宮: 用意周到な準備がメダルにつながったと?
宮下: そうですね。個々人の力だけだと外国のスピードには勝てない部分もありますから、引き継ぎのうまさで日本はメダルを獲れたと言っても過言ではないですね。

二宮: さて、ロンドン五輪では北島選手が3大会連続の2冠達成なるかに注目が集まっています。
宮下: 康介さんは自分の限界を超えられるところがスゴイですね。昨年の世界水泳でも予選、準決勝の泳ぎは決して良くなかった。正直、「メダルはちょっと厳しいかな」と感じました。ところが200メートルでは銀メダルを獲りました。本人に聞くと「(力が)出ちゃうんだよね」と。このあたりが僕たちとは違う超人ですよね。

二宮: 大事なところで最大限の力を発揮できる。北島選手はピークを合わせるのが本当にうまいですよね。
宮下: 普通の人間が70〜80%しか力を出せないところを、康介さんは100パーセント出せる。世界水泳の代表選考会ではレース中に太ももを肉離れしても泳ぎましたからね。一般的に泳いでいて水中で肉離れは起きないものですが、康介さんは自分の限界のリミッターを外して泳げる。だからこそ、あれだけの成績を残せるのだろうなと感心しました。周りの期待が大きく、プレッシャーもかかるなか、既に4個も金メダルを獲っていること自体、信じられません。

二宮: 背泳ぎでは入江陵介選手にメダルの期待がかかります。
宮下: 彼の泳ぎの美しさはマネできないですね。身体能力の高さはもちろん、小さい頃にピアノを習っていたせいか、泳ぎにリズム感がある。最後までペースが落ちない。泳ぎのリズムが一定なんです。リズムが狂うと、どうしても無駄な力を使って疲れてしまいますから、自分のタイミングで泳ぎ切れる点は彼の強みですね。ぜひ、いい色のメダルを持って帰ってほしいと願っています。

 メダルを獲ると人生が変わる!

二宮: 多くのメダリストから、「メダルを獲って人生が変わった」という話をよく聞きます。宮下さんは?
宮下: 確かに人生が変わりました。本当は8位以内に入賞すること自体すごいのですが、メダルを獲るのと獲らないのとでは世間の見方が異なる。やはりメダルは特別なもの。形あるものを得られたのは自分にとって、とても大きかったです。

二宮: 実際にメダルを獲ると待遇が変わる?
宮下: はい。印象的だったのは帰国の飛行機ですね。北京から戻る時に、メダリストだけはビジネスクラスに乗れました。そして空港に到着すると、「まず金メダリストの方集まってください」と指示が出ます。その次が銀メダリスト、銅メダリストの順です。成績の良かった選手から到着ゲートを早く出られるスタイルになっていました。

二宮: メダルを獲って、もう1回、五輪に出てみたいという気持ちは?
宮下: もちろん最初はありました。だけど、北京五輪に出るためだけに頑張ってきた4年間は、とても長く、苦しいものでした。それでも諦めなかったのは「自分は4年間で成長できる」と信じていたからです。次のロンドンを狙うとなると僕は28歳になります。年齢的に考えても、北京までの4年間に比べると伸びる可能性は少ない。さらに好結果を残さないと自分も周囲も納得しませんから、さらに4年間頑張るのは耐えられないかなと感じました。

二宮: ロックのグラスが空いていますね。もう一杯どうぞ。
宮下: これはおいしいですね。鹿児島は芋焼酎が多いので、そばはあまり味わう機会がないのですが、ブランデーみたいな深みがあります。樽で寝かせたような風味もありますね。

二宮: さすがツウですね。この「那由多(なゆた)の刻(とき)」は樫樽のなかで貯蔵熟成したものです。
宮下: アハハハ。では、次はお湯割りにして、香りを楽しみたいと思います。

(後編につづく)
※5月15日発売の講談社『大人の週末』6月号では、この対談の特別編が掲載されています。こちらも合わせてお楽しみください。

<宮下純一(みやした・じゅんいち)プロフィール>
 1983年10月17日、鹿児島県生まれ。ホリプロ所属。5歳から水泳をはじめ、鹿児島県立甲南高から筑波大に進学。06年のドーハアジア大会では100メートル背泳ぎ1位。08年4月の日本選手権100メートル背泳ぎで2位に入り、54秒37で選考標準タイムを突破。北京五輪代表に選ばれる。同年6月のジャパンオープンでは50メートル背泳ぎで25秒26の日本記録(当時)を樹立。8月の五輪本番では100メートル背泳ぎ準決勝で53秒69のタイムを出し、日本記録(当時)を更新。同決勝では8位入賞。男子400メートルメドレーリレーでは北島康介、藤井拓郎、佐藤久佳とともにに、日本チームの第一泳者として銅メダル獲得に貢献した。五輪後、現役を引退し、スポーツキャスター、タレントとして活躍している。NHK総合テレビ「あさイチ」で毎週火曜日にリポーター出演。DVD『宮下純一のぐんぐん進む! 背泳ぎテクニック』が発売中。
>>オフィシャルブログ




★今回の対談で楽しんだお酒★[/color]

長期に渡り、樫樽の中で貯蔵熟成した長期貯蔵の本格そば焼酎「那由多(なゆた)の刻(とき)」。豊かな香りとまろやかなコクの深い味わいが特徴。国際的な品評会「モンドセレクション」2012年最高金賞(GRAND GOLD AWARD)受賞。

提供/雲海酒造株式会社

<対談協力>
さくら亭
東京都中央区佃1−11−8 ビアウエストスクエア1階
TEL:03-5580-3321
営業時間:
昼食 11:30〜14:00(L.O.)
夕食 17:30〜21:30(L.O.)
休日: 月曜(すし)、水曜(和食)

☆プレゼント☆
 宮下純一さんの直筆サイン色紙を長期貯蔵本格そば焼酎「那由多(なゆた)の刻(とき)」(720ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼント致します。ご希望の方はより、本文の最初に「宮下純一さんのサイン色紙希望」と明記の上、下記クイズの答え、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、このコーナーへの感想や取り上げて欲しいゲストなどがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選は発表をもってかえさせていただきます。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。
◎クイズ◎
 今回、宮下純一さんと楽しんだお酒の名前は?

 お酒は20歳になってから。
 お酒は楽しく適量を。
 飲酒運転は絶対にやめましょう。
 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

(構成:石田洋之)
◎バックナンバーはこちらから