いくつかあった“大きな不安”は消えた。
 まずは最大の不安――本田は大丈夫か、である。
 大丈夫、どころではなかった。その攻撃力が、ケガをする以前よりも大きくなっているように感じられたのはわたしだけだろうか。フィニッシュに顔を出し、フィニッシュの一歩前にも顔を出し、中盤で得点の起点となるプレーも見せた。この試合の試合球はW杯南アフリカ大会でも話題になったブレ球の出やすい“ジャブラニ”ではなかったが、彼の左足から放たれたFKは委細構わずバーを直撃した。本田に関しては、もう心配ない。

 長谷部は大丈夫か、という不安も消えた。所属するボルフスブルクでMFとしての出場機会が減っているのが不安材料だったのだが、こちらもまったく問題はなかった。動きの量はいずれ戻ってくる。先制点のアシストを記録できたことで、気分よく最終予選を迎えることもできるだろう。

 チームとしても、格下とはいえ2点を奪い、かつ無失点で勝利を収めたことで、ひとまずは2連敗で終わった3次予選の嫌な流れを断ち切ることができた。ここで攻めながらもスコアレスドローなどを演じてしまっていたら、選手たちの不安はかなり大きなものになっていたに違いない。そういった意味からすると、ちょっとした精神安定剤にもなってくれそうな勝利ではあった。

 ただ、最終予選が予断を許さないものであるのは言うまでもない。
 この日のアゼルバイジャンはフットボールの勝負を挑んできてくれたが、来るべき予選では内容を度外視し、ただただ勝負のみにこだわってくる相手も出てくるだろう。そういう相手をこじ開けるにはどうしたらいいのか。あるいはどうやってこじ開けようと考えているのか。現時点での日本は、その答えにたどりつけていない。

 カギを握るのは、岡崎のパートナーになるのではないか。
 欧州でプレーしている選手は、特にドイツやイタリアでプレーしている選手は、それだけで警戒の対象となる。森本が負傷してしまった以上、前線では岡崎がまず警戒される存在となるだろう。だが、3次予選を見ても、そしてこの日の試合を見ても、1+1を3にするような、たとえば長谷部と香川、本田と長友のような関係を、岡崎とその他のアタッカーとの間に見いだすことはできずにいる。いまはまだ名前すら挙がっていない“誰か”の出現が待たれるところだ。

 足りないところ、やらなければならないことはまだまだある。それでも、こんなに明るい気持ちで最終予選を迎えるのは、わたしにとっても初めてのことである。

<この原稿は12年5月24日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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