444本塁打、2471安打、1522打点――。言うまでもなくミスターこと長嶋茂雄が残した数字である。
 メディアはこの記録を抜いた選手が現れるたびに“長嶋超え”と大々的に報道する。確かに数字の上ではミスターを上回ったかもしれない。だが“長嶋超え”という表現には少なからず違和感を覚えずにはいられない。

 さる5月9日付の各紙にも“長嶋超え”なる見出しが躍っていた。阪神の金本知憲が8日の広島戦で2安打を放ち、通算2472本にまで積み上げたのだ。
 金本の偉大さについては、あらためて説明するまでもない。1997年7月から2010年4月まで世界記録となる1492試合連続フルイニング出場を果たした。44歳でもレギュラーを張る彼はまさに“平成の鉄人”である。
 数々の記録を塗り替えてきた金本だけに2472安打に対する感想も冷静だった。「オレが抜くたびに長嶋さんの名前が出ることが偉大だということ。あの人は別格だから」と本人。

 これまでミスター以上の成績を残している選手はホームランで13人、安打で8人、打点で6人いる。数字だけで判断すれば、ミスターより偉大な選手は何人もいる。
 だからといって“長嶋超え”と表現するのは、あまりにも安易である。「記録よりも記憶の人」と言われるように、天覧試合でのサヨナラホームランをはじめ、ミスターは劇的なシーンをいくつも演出している。その意味では「ミスターの前にミスターなし、ミスターの後にミスターなし」と言っても過言ではないだろう。

 自らの記録を上回った選手が現れるたびにコメントを求められるミスターも大変だ。金本に対しても「たゆまぬ研さんと厳しい自己管理のたまものですね。痛みに耐えながらグラウンドに立ち続け、安打を重ねる姿は私たちに感動を与えてくれます」とねぎらいの言葉を送っていた。金本にとってこれ以上のお墨付きはあるまい。

<この原稿は2012年6月4日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

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