<昨日勝って10連勝しました。日本人開幕連勝記録達成です。これからも頑張ります>
 5月28日、台湾から短いメールが届いた。送り主は台湾プロ野球の統一セブンイレブン・ライオンズで活躍する鎌田祐哉。日本では東京ヤクルトと東北楽天で11年間プレーした。
 鎌田は5月27日、台南で行なわれたラミゴ・モンキーズ戦に先発して7回3安打2失点と好投。開幕からの連勝を10に伸ばした。

 これまでの日本人投手の連勝記録は93年に俊国ベアーズ(現興農ブルズ)の野中徹博がマークした9。鎌田はこれを更新するとともに、防御率も1.55でリーグトップである。開幕直後の3月には月間MVPにも輝いた。台湾プロ野球は前・後期の2シーズン制を採用しているが、鎌田の奮投によりチームは前期制覇にマジック2(5月31日現在、以下同)と迫っている。

 GWを利用して台湾に行ってきた。元々、台湾は野球熱の高いところだが、96年に発生した八百長事件の影響もあり、最盛期には2リーグで11もあったチーム数が4つにまで減った。
 台湾で過去8年のコーチ経験を誇る榊原良行(兄弟エレファンツ)によれば「リーグのレベルは日本の1軍半あたり」。個々の素材は素晴らしいが、制球力のあるピッチャーが少なく、守備も基本ができていない、と語っていた。私が観戦した試合でも雑な部分が目についた。ざっくりと言えば大味な野球である。

 しかし、仮に台湾プロ野球のレベルが「日本の一軍半あたり」だとしても、10勝0敗、防御率1.55という記録は見事である。シーズンオフにはNPB(日本プロ野球組織)からお呼びがかかるのではないか。好調の理由を鎌田はこう話す。
「コースを丁寧に突けば、そう打たれることはない。反面、間違って甘いコースに入ると長打になる確率が高い。こっちはバットを思いっ切り振ってくるバッターが多いですから。油断しないようにと自分に言い聞かせながら投げています」

 鎌田のNPBでの通算成績は14勝17敗、防御率4.04。精神的な弱さもあって一線級にはなれなかったが、それでも3年目には完封勝ちを2つも記録している。ヤクルト時代の鎌田を知る古田敦也は「ストレートも速いし、スライダーも切れる。非常にいいピッチャーでした」と語っていた。

 南国の気候も鎌田には幸いしたようだ。
「肩やヒザに故障を抱えているため、毎年、どこかが痛くなるのですが、それが今年はほとんどない。シーズンを通してローテーションの柱として回るのは初めてなので、いい経験をさせてもらっています」

 台湾を経てNPBに復帰した例としては先に紹介した野中や正田樹(現ヤクルト、日本の独立リーグ経由)があげられる。もちろん鎌田も、そこを目標に置く。
「肉体的にも、まだまだ僕はやれると思っています」
 日本時代は、どこか控えめな印象を抱かせる男だったが、それもすっかり消え、ハングリー精神の塊である。

<この原稿は2012年6月17日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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