「K-1やDREAMを最近テレビで観ませんけど、大会はなくなってしまったんですか?」
 最近、そんな風に聞かれることがよくある。
 今年に入ってから日本国内において、K-1もDREAMも、まだ1度も大会が開かれていない(アマチュアの『K-1甲子園』は1度だけ開催されたが……)のだから、そう思われても仕方がないのか。だが勿論、K-1、DREAMが消滅したわけではない。

 K-1をこれまで運営してきたFEG(谷川貞治代表)は選手へのファイトマネーの未払いなど多くの問題を抱えたまま先月、破産した。代わってK-1グローバル・ホールディングス・リミテッドが新たに運営にあたり、5月27日(現地時間)にスペインで新体制となって最初の大会を開いている。DREAMも次回大会の日程を発表できないでいるが、まだ存続している。消えてなくなったわけではない。ただ……目立たなくなっただけだ。

 日本国内では世界のトップファイターが集うビッグイベントは行われなくなった。そのため、いま、コアな格闘技ファンの目は海外に向けられている。特に注視されているのはUFC。7年前にPRIDEが消滅して以降、総合格闘技のトップファイターたちはオクタゴンに集結しているのである。

 そのUFC(『147』)が今月23日(現地時間)、ブラジルで開かれる。メインエベントに登場するのは、日本のファンにもなじみの深いファイター、ヴァンダレイ・シウバ(ブラジル)だ。対戦相手は第4代UFCミドル級王者リッチ・フランクリン(米国)。

 3年前の2009年6月、ドイツでの『UFC99』で両雄は対戦している。この時、激しい打撃戦の末、僅差の判定でシウバは敗れた。よって、今回の一戦は彼にとってのリベンジマッチとなるわけだが、実際にはそれ以上に大きな意味を持つ闘いとなるだろう。

 もはや、いまのシウバにはPRIDEのリングで桜庭和志と闘っていた時のような勢いも強さもない。すでに35歳。長く所属したシュートボクセ・アカデミーを離れて独り立ちし、07年12月にUFC参戦して以降の戦績は、3勝4敗と負け越している。

 昨年11月、『UFC139』で格下のカン・リー(米国)に勝利するも、シウバから全盛期の鋭い動きを観ることはできなかった。いま、かつての『PRIDEミドル級絶対王者』は、連敗すればUFCから契約を解除される立場にいるのである。

「負けることが増えたし、以前とは自分が置かれている状況が違うことは、よくわかっている。もう引退か……と俺に言った人もいるが冗談じゃない。母国で、俺はまだやれることを証明したい」
 シウバは決戦を前に、そう話しているが、完全復活を果たすことができるのだろうか。

 今回のシウバ×フランクリン戦はタイトルマッチではないにもかかわらず、通常の<5分×3ラウンド>ではなく、<5分×5ラウンド>で行われる。両者のファイトスタイル、そして互いが戦術を知り尽くし合っていることを考えれば、短期決着の可能性は薄いだろう。心を削り合うフルラウンド・ファイトが予想される。スタミナに不安のあるシウバにとって正念場である。

 負ければシウバの即引退もありうるだろう。これは1年4カ月ぶりの試合となる37歳のフランクリンにも同じことが言えるのだが……。

----------------------------------------
近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー〜小林繁物語〜』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』(汐文社)ほか。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
◎バックナンバーはこちらから