地上波から市場移りスターの誕生難しく
来年のW杯における日本代表の、地上波中継が決まったという。
いわゆるライトな層への波及効果を考えれば朗報ではある。ただ、全64試合のうち41試合が地上波で放送された前回大会に比べると、大幅に減少するのも事実らしい。
元締めたるFIFAが放送権料の高額販売に前のめりな以上、この傾向には今後も拍車がかかっていくはず。せめて、以前とは比べものにならないほど過酷な日程を余儀なくされる選手たちに配分されるよう、見守っていくしかない。
サッカーに限らず、多くのスポーツで、選手たちが得る報酬は経済成長率をはるかに超える曲線を描いている。スポーツビジネスに特化した米サイト「Sport ico」によれば、ボクシング・井上尚弥の昨年度の年収は4200万ドル(約66億円)とのこと。貨幣価値の違いがあるとはいえ、最高年収が1億2000万円程度だったとされる具志堅用高さんと比較すると、目が眩む思いがする。
なぜこれほどの格差が生まれたかといえば、言うまでもなく市場の大きさである。ほぼ日本国内でしか試合が放送されなかった時代と、そうでなくなった時代の違い。これは、年収2億6000万ドル(約406億円)を稼ぐクリスティアーノ・ロナウドと、ペレやクライフ、マラドーナとの違い、と言ってもいい。
ただ、市場――つまりは視聴者層が地上波からネットメディアに移行していくことで、変わっていくものもあるだろう。
かつて、ムハマド・アリを知らないスポーツ・ファンはいなかった。バスケットに興味がない層にも、マイケル・ジョーダンの名前は知られていたし、アイルトン・セナはF1を超えた存在だった。
だが、いまの日本で、ステフィン・カリーを知っているスポーツ・ファンの割合はどれぐらいだろうか。あるいは、タイソン・フューリーは?
前者がNBAウォリアーズのポイントガードだと、後者がWBC世界ヘビー級王者の英国人だと知っている人が、どれだけいるだろうか。昨年度の年収がC・ロナウドに次ぐ2位、3位だったアスリートの存在を、どれだけの人が認識しているだろうか。
ここ数年、よく見聞きする声に「最近の日本代表にはスターがいない。だから興味をそそられない」というものがある。これはサッカー界の問題というよりは、時代の流れによるものだろう。いま、日本代表のユニホームを着て戦う選手の多くは、かつてスターとされた日本代表の面々より、はるかにレベルの高いところで戦っている。手にしている収入よりも、おそらくは上回っている。
ただ、知名度がない。タイソン・フューリーの知名度がマイク・タイソンに遠く及ばないように、いわゆるライトな層の関心を惹きつける場に恵まれていない。
これはもう、善しあしの話ではない。日本に限らず、全世界で、かつてのようなスターの誕生は難しくなったということなのだろう。
では、スポーツと地上波の関わりは、今後、どうなっていくのか。
興味深かったのは、先週末のJ2だった。史上稀に見る大激戦となった最終節は、実は昇格に絡む茨城、宮城、静岡、長崎、徳島でNHKが地上波放送をしていた。千葉ではチバテレが放送し、ライトな層がドラマに触れる機会を提供していた。個人的には、地上波中継を実現させたすべての人に、拍手を送りたい気分である。
<この原稿は25年12月4日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>