前期は大幅な負け越しが決定(6月19日現在、6勝22敗5分)し、苦しい戦いとなってしまいました。敗因は一言で言えば“軸”の不在です。投手では吉川岳が肩の故障で離脱。野手では4番を打っていたキース・ブラックオー、ショートの西本泰承が米国独立リーグに移籍してしまいました。ケガ人も発生して、戦力的に厳しかったのが正直なところです。
 2009年に独立リーグ日本一に輝いた時は打線が少ないチャンスをモノにし、中盤までにリードして逃げ切る野球ができていました。ところが、今季はなかなか先行できず、中盤以降に投手陣が崩れて負けるパターンが多いですね。チャンスはつくってもあと1本が出ない。ピンチで踏ん張りきれない。そんな悪循環に陥っています。

 ただ、ここまで負けが込んでしまったのは、代わりに軸となるべき選手が軒並み不調だったことが挙げられます。投手では昨季11勝をあげた山崎慎一郎が未だに白星なしの0勝7敗。実績のある野原慎二郎も1勝6敗と勝てません。

 結果が出ない理由ははっきりしています。まず山崎に関してはインコースを使い切れていません。彼はシュートとスライダーで打者を打ち取るのが持ち味の右腕。しかし、今季は生命線であるインコースを突けていません。バッターは胸元にボールがこなければ、どんどん踏み込んで打ってきます。立ち上がりは球威で抑えられても、2打席目、3打席目と試合が進むにつれ、つかまってしまうのです。

 これまでは負けても先発で起用していましたが、いくら育成の独立リーグとはいえ、結果も残さなくてはいけません。少し本人にも危機感を持ってほしいと17日の愛媛戦では中継ぎで起用しました。2イニングをゼロに抑え、好内容でしたから、これをきっかけに自分の投球を見つめ直し、昨季のように白星を重ねてほしいものです。

 野原は制球に悩んでいます。もともとコントロールはいいタイプではありませんが、今季はいい時と悪い時の波が激しいです。2アウトから急に崩れたり、2ストライクと追い込んでからボールを連発したり……。本人も何とかしたいとの思いは持っていますから、吉田豊彦コーチも含めて原因を追究し、早い復調を望んでいます。

 野手では開幕から5番を任せてきた曽我翔太朗が低打率(.208)にあえいでいます。更なるレベルアップを図ろうと試行錯誤した結果、それが逆にスイングをおかしくしてしまっているようです。こちらからもアドバイスをしながら、打率3割をマークした昨季なみのバッティングを復活させたいと思っています。

 苦しいシーズンのなか、若手からは楽しみな存在も出てきました。投手では左腕の雄晴(明徳義塾高(中退)−ウィザスナビ高)がそのひとりです。彼は昨年から練習生として採用しましたが、最初はオーバーハンドでコントロールがなかなかまとまりませんでした。そこで昨秋より福岡ソフトバンクの森福允彦をイメージし、腕の位置を下げたのです。すると制球力がアップし、左打者が打ちにくいピッチャーになってきました。

 フォーム改造直後は球威がありませんでしたが、投げるたびにスピードは上がり、最近は130キロ台後半を記録しています。まだ19歳ですから、これから経験を積めば、いいピッチャーになるでしょう。まずは左の中継ぎとして任せられたイニングをしっかり抑えられるようになってほしいものです。

 野手では5月に選手登録した大石崇晴(報徳学園高−城西大学(中退))に注目です。実は彼はあの近鉄で活躍した大石大二郎(現福岡ソフトバンクヘッドコーチ)の息子。170センチとお父さん同様小柄ながら、足が速く将来性のある選手です。その俊足を生かすため、彼には今、スイッチヒッターに挑戦してもらっています。もともと右打ちでしたが、左のバッティングも素直で“父の遺伝子”を感じます。連戦経験がなく、このところ少々バテ気味ですが(苦笑)、1〜2年後を見据えて体力強化に取り組ませたいと考えています。

 故障離脱していた真弥矢今中尭大が復帰し、投手陣は雄晴に右の木幡翔、そして抑えの井川博文と勝ちパターンが整備されてきました。夏場に向けてチーム状態は上向きです。あとは先発の山崎や野原、そして打線の軸となる曽我や迫留駿らが機能するかどうか。軸がしっかりすれば、後期の巻き返しは十分可能です。

 今季から高知球場にナイター設備ができ、ファンの皆さんには観戦しやすい環境になったにもかかわらず、なかなか勝ちゲームをお見せできず、本当に申し訳なく思っています。後期は優勝争いに絡み、高知を盛り上げたいと強く思っています。引き続き、熱い応援をどうかよろしくお願いします。


定岡智秋 (さだおか・ちあき)プロフィール>: 高知ファイティングドッグス監督
 1953年6月17日、鹿児島県出身。定岡三兄弟(次男・正二=元巨人、三男・徹久=元広島)の長男として、鹿児島実業から72年、ドラフト3位で南海(現ソフトバンク)に入団。強肩の遊撃手として河埜敬幸と二遊間コンビを形成した。オールスターにも3回出場し、87年限りで現役を引退。その後、ホークス一筋でスカウトや守備走塁コーチ、二軍監督などを歴任。小久保裕紀、松中信彦、川崎宗則などを指導し、現在の強いソフトバンクの礎づくりに貢献した。息子の卓摩は東北楽天の内野手。08年より高知の監督に就任。現役時代の通算成績は1216試合、打率.232、88本塁打、370打点。
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