松坂大輔投手(レッドソックス)が、ヒジの手術を経て、約1年ぶりにメジャーリーグのマウンドに戻ってきました。25日現在、3試合に先発登板し、0勝2敗、防御率6.06と、残念ながらまだ勝利を挙げることができていませんが、それでも1試合目より2試合目、2試合目よりも3試合目と、徐々に内容は良くなってきています。特に3試合目の登板となった22日のマーリンズ戦は、初回こそコントロールが安定せず、3失点とバタバタしてしまいましたが、2回から4回までは3イニング連続で三者凡退と、松坂投手自身もある程度、手応えをつかんだのではないでしょうか。今は徐々にステップアップしている段階と言っていいと思います。
 現在の状態としては、6〜7割程度のピッチングといったところではないでしょうか。150キロ台をマークするなど、スピードは出ていますが、腕の振りは本来のものではありません。今後、もっと体のキレが出てくれば、腕の振りもよくなってくるでしょうから、さらにいいピッチングが見れることでしょう。

 見る限りでは肩やヒジに関してはほぼ100%に近い状態で、特に心配はないと思います。しかし、状態のいい上半身に対して、まだ下半身がついてきていません。その上下のギャップが、腰の回転と腕の振りとのタイミングのズレを生じさせているのです。日本とは異なり、メジャーのマウンドは硬いこともありますので、股関節の柔らかさを含めた下半身の粘りが重要です。腕だけで投げている現在でさえも150キロをマークしているわけですから、下半身から体全体を使って投げられるようになれば、リリースの後のフォロースルーもしっかりと取れるようになり、球持ちがよくなることでさらなるスピードアップが見込めるはずです。

 手術したからこそのメリット

 気になるのは、右腕のヒジの位置です。これはメジャー入り後からですが、西武時代よりも下がっているのです。ピッチングの中心となっているカットボールやスライダーの曲げ幅をより大きくするために、松坂投手本人が意識をして下げているのならいいのですが、そうでなければ、修正した方が特にストレートについては彼本来のボールが投げられると思います。ヒジの高さについては、今後も注意深く見ていきたいですね。

 さて、「果たして松坂投手は元に戻れるのだろうか……」と不安な気持ちでいるファンも少なくないかもしません。しかし、私は松坂自身が驚くほど、どんどんいい状態に上がっていくと思っています。実は私も現役時代に松坂投手と同じヒジの手術をしているのですが、手術をしたことによってのメリットがあるのです。それはリハビリ期間中は体全体をしっかりとトレーニングすることができるということです。ですから、手術後は意外なほど体の反応がよくなっているのです。

 とはいえ、私自身、本来の腕の振りを取り戻すには約半年間の時間を要しました。とにかく焦りは禁物。今後、必ず良くなっていくと信じて、一段一段ステップアップしていくことが重要です。松坂投手にも、その過程を楽しむくらいの気持ちで投げてほしいなと思います。現在の松坂投手がMAXの状態でないことは確かですから、これからどんなふうに上がっていくのか、見守っていきたいですね。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
◎バックナンバーはこちらから