第183回 パラスポーツが教えてくれた「多様性」
この1年、多様性に関するお仕事に多く恵まれました。
「多様性(ダイバーシティ)」という概念は、DEI&B(Diversity=多様性、Equity=公平性、Inclusion=包括性、Belonging=帰属意識・一体感)へと発展しています。
パラスポーツの現場に身を置くと、多様性にたびたび出合います。少しの違和感もなく、腑に落ちることばかりです。そう思えるようになったのは、あるパラアスリートの一言からでした。
「多様性は、もちろん多様な人がいるということなんですが、それよりも前に多様な生き方があるってことだと思う」
胸に刺さる言葉でした。障がいの有無や種類の異なる多様な人がいる、しかし重要なのは、その前に多様な生き方があるという考え方です。
さてそんな中、ある大学の法学部の先生がご教授くださいました。日本国憲法第14条「法の下の平等」について、です。
<すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない>
すべての国民は人種、信条、性別、社会的身分、門地によって差別されてはいけないと定め、これは誰もが生まれや属性に関わらず平等に扱われるべきという考え方(平等原則)の根幹をなすものです。
こちらも胸に刺さりました。普段憲法を意識して生活していないことを恥じるとともに、もったいないことだと痛感しました。こうして制定されているにもかかわらず、それぞれの都合や誤解や偏見や、場合によっては恣意的に「平等」を曲げてきたのだ。多様性を掲げ、いまは、それを元に戻そうと必死になっている状態であることを強く了知しました。
20年以上前、STANDを設立するにあたり、掲げたコンセプトはこうです。
「年齢・性別・障がい・職業・国や地域の区別なく、すべての人が持てる力を発揮し、誇りある自立を得、ともに明るく豊かに暮らす社会を実現するためには、互いに尊厳を持ったコミュニケーションの確立が必要です。
それが『ユニバーサルコミュニケーション』という考え方です。
私たちは、この『ユニバーサルコミュニケーション』を社会活動として推進します」
多様性という言葉をまだよく知らず、パラスポーツの現場に通った中から、必死で紡ぎ出した文章です。今思うと「わりとよくできているな!」と自画自賛したい気分です。
それはさておき、事業を起こしたきっかけは2003年。初めてパラスポーツのウェブ生中継を実施した際、「おまえら、障害者をさらし者にしてどないするつもりや!」と、ご批判をいただいたことでした。さらし者とは「人前で恥をかかされた人」という意味。大きな違和感を持ち、ちょっとずつ社会が変わったら、という思いでNPOを設立しました。それほど「さらし者」の一言は、私にとってかなり大きな違和感でした。
パラスポーツの現場で多様性に触れた後、私はこう思うようになりました。
「さらし者」と叫んだ人にとっては、まさに「何してくれるんや」との思いだったのだと。パラスポーツの場には、障がいの有無や種類も含めて多様な生き方があります。一人ひとりに尊厳があり、敬意をもって接することこそ、大切だということを教えてくれます。
そう思うと、パラスポーツの世界は、社会を映し出していると言えます。
多様性とは、多様な人がいるのではなく、多様な生き方があること。その考え方が大切だと、つくづく感じる年の瀬です。
<伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>
新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。2024年、リーフラス株式会社社外取締役に就任。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。