第184回 大切なことを教えてくれたスコアカード
「ゴルフ〇〇〇」なるものをインストールしました。ゲームソフトではありません。ラウンド時のスコアを入力し、管理・分析するソフトです。
古く20代のころ、ラウンドを終えると、シューズの手入れをし、落とした芝と一緒にスコアカードもゴミ箱に捨てました。道具は大事にしていましたが、その日の反省も分析も全くせず、「上手くならない」と嘆いていました。せっかくこんな私とご一緒してくださる方のおかげで、コースに出る機会をいただいているのに。今思うと申し訳なく、情けなく、恥じ入るばかりです。
さらに猛省すべきは、「少しやっていたら、そのうち上手くなる」というような不届きな気持ちを持っていたことです。そして下手なままコースに出ては「針の筵だ」などと、見当違いも甚だしい思いになっていたのです。ゴルフに対して失礼千万、こうして書いていても顔が赤くなります。
それから随分経ってパラスポーツの活動の中で、「誰もがゴルフを楽しめる」を標榜する日本障害者ゴルフ協会に出合いました。
様々な障害のある人が、まさに「ゴルフを楽しむ」を実践しています。
義手の選手に聞いたことがあります。「ゴルフを始めて、ゴルフが楽しいから、生活のすべてが輝いてきて、幸せを感じ人生に感謝の気持ちが湧く」。楽しいことにこんなにも想いを馳せておられることに感動しました。楽しいって素晴らしいのだと。
コロナを機に、何十年かぶりにゴルフを再開しました。そしてやはり何十年かぶりにラウンドに出ました。帰宅し、「このスコアカードを捨てちゃいけない」と何気なく引き出しにしまいました。次の回のカードも捨てられない気持ちになり、引き出しの奥へ。ただただ捨てることへの罪悪感のみでしまっておきました。すると、小さな引き出しはパンパンになって、カードが挟まって開かなくなってしまいました。だめだ、取り出そう。
すると、けっこうな枚数になっていることに驚きました。再開したころのカードが愛おしく感じられます。このとき、どんなことがあったんだっけ? どなたとご一緒したんだっけ? 雨は降ってたっけ?
もちろん、何も思い出せません。ただ引き出しに入れておくだけでしたから。
カードたちが、こちらを見ています。“溜めておくだけで何にもしないから、意地悪して引き出しを詰まらせたんだ”“これまでのスコアを見てもらおうとしたんだぞ”“なんとかしろよ”と、聞こえるようでした。
これまでのカードに申し訳ない気持ちが湧いてきて、どうしようかと思案しました。まずは時系列に並べてみました。あ、少し良くなっている。そうか、私は自分をきちんと見ていないんだ。またまた自分に対しても申し訳なくなりました。
実は今でも、ラウンドの前日にはできれば嵐が来てくれないかなど、往生際の悪い思いが頭をよぎっています。そう、実は「楽しい」よりも、「早く楽しくなりたい」という一心で、鞭打って出かけているのです。
ある日、ご一緒した方がこうおっしゃいました。
「ゴルフを習っているのは、楽しくするためなんです。上手くなっておけば楽しいじゃないですか!」
本当にその通りだと膝を打ちました。そのために今、過去のスコアカードたちは引き出しから私にメッセージをくれたんだ、と
スコアを記録しよう。少しでもいい、その時のことを書き残そう。というわけで冒頭の「ゴルフ〇〇〇」へとたどり着いたのでした。
早速、先輩方にこのことを話してみました。今までで一番ほめられました。
「記録したいということイコール大いなる成長だ!」
「そうだっ、毎日体重を計るのが一番のダイエットと同じなんだ!」
至極納得した私は、これを大いに進めることにしたのでした。
なにを今さらと言うことなかれ。Better Late Than Never!
<伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>
新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。2024年、リーフラス株式会社社外取締役に就任。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。