ここ数年、男子の五輪代表に関しては不満が募ることの方が多かった。4年前、北京五輪の際には「女子には沢がいた。男子には誰もいなかった」と書いた記憶もある。
 今回は、違うかもしれない。なでしこと比較しても、物足りなさを覚えずにすむチームができるかもしれない。そんな期待を抱かせてくれる戦いだった。終了直前に許した痛恨のゴールでさえ、最高の良薬だと思えてしまう。
 清武はまだブンデスリーガでプレーしたわけではない。現地でも相当に期待はされているようだが、まだレギュラーが確約されたわけでは断じてない。にもかかわらず、この日の彼のプレーからは風格とでも言えそうなものが感じられた。自分の技術に対する自信、視野に対する自信、スピードに対する自信――すべてにおいてスケールアップした姿を見せてくれた。あえて苦言を呈するなら、体力的に苦しくなった後半に入ると存在感が薄れてしまったことぐらいか。苦しい時に頑張ってこそ大黒柱。五輪本大会での清武には、ぜひ長谷部の姿を思い浮かべながらプレーしてもらいたい。

 永井の存在感も強烈だった。トップスピードで突破を図りながら、フィニッシュではフルショットではなくコントロールを効かせた“パスショット”を放てるあたりは、すでにワールドクラスの気配がある。フィニッシュの精度以外は非の打ち所のなかった大津、短い出場時間ながらもメッシばりの突破を見せた齋藤、いきなりのゴールをたたき込んだ杉本、新加入の挨拶がわりの“アシスト”を決めた徳永……こんなにも明るい材料が揃った壮行試合はちょっと記憶にない。

 土壇場で許した同点ゴールは、日本の選手たちに「内容に酔うことの怖さ」「ミスの怖さ」を叩き込んだことだろう。日本の感覚であればとうの昔に諦めていてもおかしくなかったニュージーランドは、しかし、最後の最後まで少しも諦めていなかった。日本にとってこれ以上はない教訓となった戦いぶりだった。

 新戦力が結果を残したことで、チーム内での競争はいよいよ激化することだろう。関塚監督が誰を先発させようとも、誰かがジョーカーとしてベンチに残ることになる。これほどの戦力を持って五輪に臨んだチームは、かつてなかった。

 唯一気になる点をあげるとすると、中盤での大きな展開が少なかったことか。速さのある選手が揃っているだけに、中盤の底で効果的な散らしがからむようになると、日本の攻撃力は間違いなくあがる。つまり、カギを握るのはボランチ。本番直前に行われるメキシコとのテストマッチがどんな内容になるか。そこで本大会での戦いぶりもある程度予想することができるだろう。

<この原稿は12年7月12日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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