後期は引き分けから6連勝スタート。連勝はたまたまとはいえ、後期はいい戦いができる手ごたえがありました。前期の終盤から選手たちに細かく言い続けてきたことが実践できるようになってきたからです。
 それは「事前の準備で防げるミスはしない」「常に最善のプレーを追求する」の2点です。前期は優勝した香川と4.5ゲーム差の2位、香川を上回れない理由は、ここにあると感じていました。どんなに頑張っても試合では実力以上のプレーはできません。しかし、香川との大きな戦力差はない。それでも勝てなかった理由は細かい部分の徹底にあると考えたのです。

 たとえば内野手が前の打球を内野安打にしてしまった場合、ボジジョニングに問題はなかったのか、点差がある場面で打球が飛んだ際、目の前のランナーを追っかけてアウトにするのがベストの選択なのか……ひとつひとつのプレーについて、これまで以上に試合後、ミーティングを行い、全員で反省をしました。成果が出たのは香川との後期2度目の対戦となった10日の試合です。初回、お互いにチャンスをつくるなか、守備では失点を防ぎ、攻撃は橋本将に満塁弾が飛び出し、主導権を握りました。

 その後も集中を切らさず、得点を重ね、11−0。香川相手にこれだけのナイスゲームができたことは大きな自信になりました。この試合、先発で完封勝利をあげた小林憲幸は、以前と比べると、すっかり投球スタイルを変えています。中継ぎとしてNPB入りしながら戦力外になった時はストレート一辺倒だったのに、愛媛で先発に転向して打たせて取るピッチングを覚えたのです。

 相手を抑えて結果を出したことで、それが快感となり、マウンドでの自信につながっています。ピッチングに安定感が出てきましたから、これを継続すれば、NPBでの再チャレンジも見えてくるでしょう。

 また中軸に座る橋本の存在はチームにいい影響を与えています。中心バッターでも、ただ一発を狙うのではなく、状況に応じたバッティングをする。この姿勢を1、2番の樋口拓平流大輔、下位を打つ高田泰輔らが見習い、打線が「線」として機能するようになりました。相手に嫌がられるチームになりつつあると感じています。

 後期の目標は打倒・香川、そして、もちろん優勝です。河原純一が前期の最終戦より、マウンドに上がり、現状は抑えとしてパーフェクトピッチングを続けています。本来は他の若い投手に大事な場面を任せて経験を積ませたいところですが、やはり、ベテランの投球術はさすがの一語です。今後は連投や、イニングまたぎでチームの勝利に貢献してもらいながら、NPB復帰へアピールをさせようと考えています。

 先発ではデイビット・トレイハンが小林に次ぐ勝ち星(7勝)をあげ、試合を確実につくっています。彼は150キロ台の速球を連発し、このリーグでは力量が頭ひとつ飛び出ています。しかし、後期に入って他球団も対策を考え、速球を狙われるケースが増えてきました。後期は、彼自身がさらに相手を上回るピッチングをしないと苦戦するかもしれません。

 ポイントとなるのはコントロールと、バッターとの駆け引きでしょう。NPBのレベルではデイビット級のボールを投げる外国人投手はたくさんいます。ただし、バッターも高い技術を持っていますから、単にスピードが速いだけでは通用しません。より細かい制球力と投球術を身につけ、スカウトにアピールできるか。これがデイビットの将来を左右すると見ています。

 野手では3番に座る藤長賢司が打率.328とリーグトップの成績です。地元・済美高で甲子園にも出場し、打撃はこのリーグでも既に高いレベルにあります。この先、NPBを狙うなら、課題は守備になるでしょう。開幕当初、彼にはショートを守らせていましたがミスが多く、途中からサードにポジションを替えました。持ち味の打撃に集中できるようになったことが好調の要因です。

 とはいえ、NPBでは強打のサードは当たり前。彼にはぜひ強打のショートとして自らを売り出してほしいと感じています。現状、練習ではショートを守らせ、基本を身につけてもらっている最中です。内野手だった僕自身の経験から話をすると、守りで最も大切なのはポジショニングです。いくら捕球がよく、肩が強くても守っている位置が悪いとアウトにはできません。逆に肩がそこそこでも、いい場所で守れば、際どい打球をアウトにできるのです。その守備の感覚は、試合と練習を重ねるなかで、少しずつ体得できてきました。打撃のみならず、守備にも磨きをかけて、ドラフト指名を勝ち取ってほしいと思っています。

 夏は暑い中での連戦が続き、疲労から体調を崩したり、ケガをしやすくなる時期です。ただ、フィジカル面に関しては、この時期を見越して昨季からハードなトレーニングをしてきました。練習の量と質では、他球団に負けていないという自負があります。選手たちも自信を持って、この夏場の戦いを乗り切ってほしいものです。

 秋には必ず愛媛の皆さんに、いい結果を報告できるよう、引き続き、細かい部分を徹底して1試合1試合を大切に戦っていきます。今の愛媛はこれまでとは一味も二味も異なるチームになりました。ファンの皆さんには、球場でぜひ選手たちの後押しをしていただければうれしいです。

星野おさむ(ほしの・おさむ)プロフィール>:愛媛マンダリンパイレーツ監督
 1970年5月4日、埼玉県出身。埼玉県立福岡高を経て、89年にドラフト外で阪神に入団。内野のユーティリティープレーヤーとして、93年に1軍デビューを果たすと、97年には117試合に出場。翌年には開幕スタメンで起用される。02年にテストを経て近鉄へ。04年に近鉄球団が合併で消滅する際には、本拠地最終戦でサヨナラ打を放つ。05年に分配ドラフトで楽天に移籍し、同年限りで引退。06年からは2軍守備走塁コーチ、2軍打撃コーチなどを務めた。11年より愛媛の監督に就任。
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