第284回「引退すべき年齢」
人は何歳まで現役生活を続けることができるのか?
もちろんこの「現役」という言葉の定義がはっきりしないと答えは出にくい。
プロスポーツ選手としては? 一般的なアスリートとしては? 社会で活動する人間としては?
考え方はいろいろで、それぞれの状況においてということになるのだろう。

(写真:59歳の誕生日、アイアンマンを走る筆者)
先日、サッカーの三浦知良選手が58歳でJ3福島ユナイテッドFCと契約したことが発表された。50代後半に入り、サッカーのような俊敏性を問われるスポーツで戦えていることは、凄いを超えて驚異である。
また、ノルディックスキー・ジャンプの葛西紀明選手が53歳で先日開催されたワールドカップ(WC)の格下大会であるコンチネンタルカップで11位に入り、WCの出場を決めた。日本のトップ選手は皆20代。その選手たちのお父さんと同世代で、コーチ役でもある葛西選手が世界トップの大会出場という偉業、いやこちらも驚異である。
ちなみに僕も59歳になり動き続けているから、身体の変化には普通の人よりも敏感だ。瞬発力や、反応、筋出力、そして回復能力などが大きく変化していることを認めざるを得ない。そしてプロの世界は自身がやりたいからでできるようなところでもない。Jリーグはチームが戦力として認めなければ契約してもらえない厳しい世界だし、スキーWCも成績を残さなければ出られる大会レベルは下がっていく。生活管理から、トレーニング、メンタリティなど、彼らの凄さを語るエピソードをたくさん聞くが、想像を絶する神の領域だ。
彼らが話題になるのは、それだけ成し遂げていることが難しいというのを、世の中が理解しているから。一般社会では定年を迎えようとするような年齢で、スポーツ選手を続けているなんて想像もつかない。確かに僕でさえ、同級生で集まると場違いなほど、見た目や雰囲気が異なることに驚かされる。まあ、人間というのは、どんな生き方をし、どんな生活をするのかで、大きく変わるのという証明みたいなものだ。
ちなみに冒険家の世界では、「43歳限界理論」というのがある。
これは作家であり、冒険家の角幡唯介氏の著書「43歳頂点論」にもあるように、名だたる冒険家は43歳で亡くなっていることからきている。肉体的な強さは30歳前から下がりだすが、精神的な強さは経験などもあり、上がっていく。その「肉体×精神」の掛け算がもっとも高くなるのが40代前半ではないかというのが彼の持論。確かにその2つの力が掛け合わせられ、最大値を出せる感覚というのは人間としての頂点なのかもしれない。
精神の割合高い長距離系
この考え方は非常に分かりやすく、それぞれのスポーツでも適用できる。大まかに、短距離系は肉体の割合が高く、長距離系は精神の割合が高い。するとピークの来る年齢も異なるのが当然。陸上の100mなどは、肉体の求める度合いが高く比較的若い時にピークがくるが、マラソンになると精神の割合が高くなりピーク年齢が上がっていく。もちろん速筋繊維、遅筋繊維など運動生理学的な理由もあるがここでは一旦置いておこう。
僕が専門的に取り組むトライアスロンのアイアンマンの世界は競技時間が長い。世界のトップでも7時間台、一般競技者は15時間程度で、レースの制限時間は17時間だ。これだけ長くなると、肉体の能力以上に精神力が求められることが多く、トップ選手も愛好家の年齢層も比較的高い。ベテランが若者に幅を利かせられる世界と言えそうだ。だからこそ、このスポーツの頂点年齢は高く、現役期間も長いのではないかと考える。
こんな距離の長いタフなスポーツは歳をとっては難しいと言われるが、実は歳をとったほうがマインドコントロールもしやすく、意外にやりやすい。だからこそ、59歳になった今でもまだまだ挑戦できるし、むしろ短い距離のトライアスロンは厳しいなぁと思っている。
もっともこれとて、そのゴールをどこに設定するかだ。
30代と同じゴール設定をしていたのでは、まったく達成できず落ち込むし、続けるバイタリティなど失われてしまう。大切なのは50代は50代のゴール設定があっていいということ。いつも挑戦する心を失わないでいられる適切なゴール設定をすればいい。
何も我々は三浦選手や葛西選手になれるわけではない。
それでも現状に満足せず、少しでも向上させようと努力し続けることこそが大切だ。結果的に健康や仲間など、この世界にいるからこそ得られるものがあるはず。
そう考えると、プロスポーツはともかく、一般的にスポーツに引退などない。
あるのは状況や能力に応じた目標設定や競技内容であり、引退ではない。
生涯スポーツとはそういうことなのだろう。
僕も、息が止まるその日まで現役を続けるつもりだ!?
<白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール>
スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17~25年まで東京都議会議員を務めた。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)。