第285回「五輪が示すウインタースポーツの未来」
雪をも溶かす、ミラノ・コルティナ五輪の熱戦!
と書きたいところだが、その溶かす雪がない!?
このところの気候変動で、ウインタースポーツが苦境に立っている。

(写真:筆者主催の別海アイスマラソンの模様。こんなイベントもいつまでできるのか⁉︎)
このままでは、冬の五輪の開催も危ういし、冬の国民スポーツ大会だって厳しいだろう。イタリアでは雪不足でスキー場がどんどん閉鎖になっているというし、日本でもスキーシーズンはどんどん短くなっている。
五輪の盛り上がりが、多少なりとも、そんなことを考えるきっかけになるか!?
ともあれ、なんだかんだと言っても五輪は面白い。選手が命を懸けて準備し、戦っている姿は心を打つし、真剣だからこそ様々なドラマやアクシデントがあり、見ている方も一喜一憂させられる。どんなに良くできた映画やドラマよりも、“やはり本物は凄いな”と改めて感じさせられるし、この社会にスポーツが与えられる影響力があると分かる。そう、スポーツには人間を前に向かせるエネルギーがあるのだ。
しかし、そんなスポーツと言えども自然を動かすことはできない。いや、自然の摂理に従い、その範疇で行うしかないのだ。
例えばスキージャンプの男子スーパーチーム。降雪が激しくなり、本来は3本ずつ飛ぶはずが、3本目の途中で続行不能となり、2本目が終わった時点での記録で決着が付いた。3本目の1人が好記録を出した日本チームに不利になったのは事実だし、悔しい気持ちはあるが、競技の安全と公平性のためにルールはあり、今回は致し方ないだろう。スキーのような自然の中で行うスポーツは、天候で急遽スケジュールが変わったり、競技内容が変更されることは珍しくない。運、不運は当然あり、そこに文句を言っても仕方がない。
自然環境に大きく左右されるということは、気候変動も競技に大きな影響を及ぼす。これはウインタースポーツに限ったことではなく、夏のスポーツも同様だ。甲子園やインターハイなども酷暑でこれまでのような開催が難しくなってきている。夏の五輪もマラソンを筆頭にその課題を突き付けられている。室内競技でない限り、自然環境に人間が合わせる努力をするしかない。
社会へのメッセージ
ただ、屋外のウインタースポーツは雪が無くなってしまっては、成立しなくなってしまう。
大局で言えば、これからの地球でウインタースポーツは妥当でなくなってしまうのか、または極地的なものになってしまうのかもしれない。「いやいや、勝手にウインタースポーツを失くすな!」と怒られそうだが、その可能性は否定できないだろう。だからこそ、そうならないような努力とアイディアを練りたい。
いま、世界では必ずしも気候変動対策に前向きな国ばかりでないのが現実。そして、個人が行動を変えたからといって、何かが大きく変わるわけでもない。そして変化には時間がかかる……。
でも、次世代にウインタースポーツを受け継いでいきたい。住みやすい地球を受け継いでいきたい。そんなことを少しでも多くの人が考え、アクションをしていかなければ、変化の速度はどんどん加速していくだろう。「地球はもともと気候変動するもの」という理由で否定される方もいるが、本当にそれが正解なのか。現時点では100%はない中、できることはしておかなくていいのか。進んだ道は戻れない。
私1人がこんなことを書いても世界は変わらない。
でも、五輪を見て感動している方が、少しでもそんなことを感じ、課題意識を持っていただくことができたなら、社会は少しだけでも前に進むのではないだろうか。
IOCでは今後の開催方法に関して様々な議論が進んでいる。と同時に五輪の役目として社会にメッセージを送ることも忘れてはならない。五輪を通じて、人間の力、スポーツの力を魅せていくのと同様に、社会課題に目を向けていく必要がある。それでこそ平和の祭典であり多様性や環境課題への問題提起となり得る。当たり前だが、すぐに解決できるような問題ではない。しかし五輪の役目として、それを問い続けていくことが大切だ。
日本中を感動の渦に巻き込んでくれたフィギュアスケートペア金メダルの「りくりゅう」ペア。そのコーチであるブルーノ・マルコットさんが、ショートプログラムでミスをして落ち込んでいる2人に掛けた言葉がある。
「過去は変えられない。コントロールできるのは未来に起きること」
その言葉で、未来の行動に意識を移した彼らの奇跡の滑りは、ご存知の通りである。
我々は未来に向けて意識を変えられるだろうか。
<白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール>
スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17~25年まで東京都議会議員を務めた。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)。