2008年の北京五輪に続く金メダル獲得を目指し、バスケットボールのアメリカ代表が間近に迫ったロンドン五輪に向けて調整を続けている。
 レブロン・ジェームス、コービー・ブライアント、ケビン・デュラント、カーメロ・アンソニーといったスーパースターたちが名を連ねた代表チームは今回も魅力たっぷり。名実を兼ね備えたスター軍団は、ロンドンでもダントツの優勝候補筆頭に挙げられている。
 しかし、そんな2012年版チームの中でも最年長のコービーが、7月上旬にこんなコメントを残して物議を醸すことになった。
(写真:コービーの大胆な発言は少なからず波紋を呼び起こした)
「若く、身体能力に秀でていて、選手層の厚いこのチームなら、1992年のバルセロナ五輪で金メダルを獲得した初代ドリームチームにも勝てるのではないか」

今年の代表チームも極めて上質で魅力的なことは確かである。点が取れる選手はもちろん豊富な上に、タイソン・チャンドラー、アンドレ・イグダーラのような優れたディフェンダー、クリス・ポール、デロン・ウィリアムスといった司令塔も擁している。サイズ不足という弱点はあるものの、コービーの言葉通り、身体能力と爆発力では歴史に残るレベルと言えるかもしれない。

ただ、コービーが名指しした1992年の“ドリームチーム”とは、バスケットボールファンの間では永遠に語り継がれるであろう伝説的存在である。
マイケル・ジョーダン、マジック・ジョンソン、ラリー・バード、パトリック・ユーイング、チャールズ・バークリー、カール・マローン、ジョン・ストックトンといった超が付くスーパースターがこぞって参加し、ロースター12人中の11人が後に殿堂入り。対戦相手ですらファン気分でこぞって写真撮影を依頼したほどで、五輪を通じてほとんどまともな試合にはならなかった。バルセロナの8戦で平均43点差をつけたアメリカ代表は、軽々と金メダルを持ち帰っている。

 このスーパーチームの勇姿のおかげで、NBA、バスケットボールの人気は全世界で拡大。各国の競技レベルは一気にアップし、後に一時的にアメリカ代表が国際舞台で勝てなくなる時期が来るという皮肉な事態にまでなった。
よりによって、そのチームを比較対象に持ち出すとは、さすがは屈指の負けず嫌いで知られるコービー。伝説すらも恐れない発言は、しかし直後に多くの反響を呼び起こすことになった。
(写真:ジョーダン(背番号9)らが中心となったドリームチームの名声は永遠に不滅である)

近年のNBAでご意見番的存在になっているバークリーは、「笑わせてくれるよ。(今年の代表メンバーで)当時のチームに入れるのはコービー、レブロン、デュラントくらいのものだろうな」とコービーの言葉を一蹴。さらにコービーと同じく大の負けず嫌いで知られたジョーダンも、メディアの取材に対して珍しく丁寧なコメントを返している。
「そんな比較をすること自体、あまり賢明なことじゃない。コービーは私たちの身体能力がさほどでもなかったと思っているようだが、私たちはスマート(頭が良い)だった。私たちが歳をとっていたと思ってもいるみたいだが、当時の私は29歳でキャリアの全盛期だった。(スコッティ・)ピッペンは26歳か27歳で、バークリーは29歳、ユーイングは29歳だった。ほとんどすべてのメンバーがまだ20代だったんだよ」

さらになんとバラク・オバマ大統領までが、「私は(ジョーダンが属した)ブルズファンだし、1992年のチームも楽しんだから、オリジナルのドリームチームを支持しないとね」といった発言を残している。
このように、この「2012年対1992年論争」は、NBA&バスケットボール界の範疇を越え、さまざまな形で取り沙汰されることになったのだ。

バスケットボールに限らず、違う年代、時代のチームを比較する“時を越えたドリームマッチ”の想定には、いろいろな意味で無理があるもの。しかし、もしも同じ条件と無理矢理に仮定したとすれば、20年前のチームと今年のチームの直接対決はどんなゲームになるのだろうか。

 あくまで個人的意見だが、バークリーやジョーダンが示唆するような一方的な展開になるとは思わない。デュラント、カーメロらのアウトサイドショットがよく決まれば、少なくとも中盤までは好ゲームになりそうだ。ラッセル・ウェストブルックのような近年流行のパワーPGの突破力には、重鎮たちも手を焼くはずである。
(写真:現役有数のスコアラーであるカーメロをガードするのは、ドリームチームのメンバーにとっても容易ではないはずだ)

何より、現代の最強プレーヤーであるレブロンのオールラウンドな能力はドリームチーマーたちにもヒケをとるものではない。今が全盛期のこの選手が攻守の軸となったチームが、そう簡単に圧倒されるとは思えないのである。
ただ……全体のバランスで上回る元祖ドリームチームは、後輩たちが抱える弱点を決して見逃すまい。今回のチームのウィークポイントとは、前述通り、シンプルに“サイズ不足”である。

ドワイト・ハワード、クリス・ボッシュといったビッグマンの故障離脱のおかげで、今年のアメリカ代表はロースター内に7フッター(身長213cm以上)の選手がチャンドラー1人だけ。五輪期間中は、レブロン、デュラント、アンソニー、イグダーラといった本来はSF(スモールフォワード)の選手を、PF(パワーフォワード)、C(センター)に登用してしのいでいくことになりそうだ。

選手層、戦力的に劣るチームが相手ならそれでも何とかなるだろう。しかしバークリー、ユーイング、マローン、デビッド・ロビンソンらの多くの歴史的ビッグマンを擁するドリームチームを相手に、その方法で逃げ切れるとは少々考えにくい。

「対決が実現すれば、20年前のチームはバークリー、バード、マジック、ジョーダン、マローン、ロビンソンを使ってポストプレーを多用して来るだろう。ドリームチームはポストから現代のチームを打ちのめすはずだ」
「スポーツイラストレイテッド」誌のイアン・トムセン記者のそんな架空の分析に同意する関係者は多いはずだ。

両チームが力を出し合い、終盤まで接戦の好ゲームになるかもしれない。しかし、終盤のハーフコートのせめぎ合いで、サイズとポストプレーを生かした元祖ドリームチームが徐々にリードを広げていきそうだ。最終的には明白な形で、伝説のチームに凱歌があがるのではないだろうか。

もちろん、こんな空想を展開したからといって、先輩たちを軽く苛立たせたであろうコービーの発言を批判しようと言うのではない。
これから国を背負った戦いに挑むアスリートなら、「自分たちは誰にも負けない」と考えていて当然である。この選手の飽くなき闘争心を隠さない姿勢はバスケットボール界の財産であり、五輪に挑むアメリカ代表のバックボーンにもなりえるはずだ。

「自分たちに勝てないチームはない」と宣言したに等しいコービーのコメント(注:コービーは後に「7戦シリーズではなく1試合だったらドリームチームにも勝つことは可能だろう」と言い直している)の後で、アメリカ代表として必勝のプレッシャーはさらに大きくなったのかもしれない。すべての強豪の標的にされるであろう五輪では、彼らは取りこぼしが絶対に許されない立場にいると言ってよい。

期せずして代表チームに関する熱い議論が巻き起こり、ロンドン五輪の男子バスケットボールは、より注目されるイベントとなった感がある。全世界の視線が集まるこの大舞台で、コービー、レブロン、デュラントたちが世界を震撼させるような鮮やかなプレーで魅せてくれるのを楽しみにしたい。
(写真:3年連続NBA得点王のデュラントも主要な得点源のひとり)

そして、このトーナメントの後――「2012年に金メダルを獲得したチームは、元祖ドリームチームより強かったのではないか」と改めて議論が巻き起こるような流れになれば、ファンにとってもおそらくは最高なのだろう。

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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