いよいよ後期がスタートしました。25日現在、石川ミリオンスターズは2勝3敗。前期のスタートと比べると、正直、いい状態とは言えません。何人か重なって選手たちに疲労が出てきているようです。しかし、前期よりも守備はバッティングがよくなってきている選手もいますので、これからというところです。後期は前期に続いての優勝はもちろん、秋のプレーオフに向けてチームや個人の課題を少しでも克服していけたらと思っています。
 さて、今季の打線は私が石川に来てから、最も活発です。その一番の要因は、俊足の1番・小倉信之(国士舘高−国士舘大−茨城ゴールデンゴールズ−フェデックス)が出塁し、2番・謝敷正吾(大阪桐蔭高−明治大)、3番・マデラ(ドミニカ)がコンスタントにヒットを打っていることです。特にリードオフマンの役割を果たしている小倉は、最も成長した選手に挙げられます。昨季は思い切って引っ張るだけのバッティングでしたが、今季は七分八分のスイングで左右に打ち分けられるようになりました。バッティングへの考え方が柔軟になった証でしょう。

 今季は2番を担っている謝敷は、未だに本調子ではありません。昨季ほどバットが振れていませんし、まだ下半身に粘りが出てきていません。それでもここ2試合ほどは、私から見ても「いいな」と思えるバッティングが出つつあります。本人も同じ感覚のようで、21日の新潟アルビレックス戦での3打席目、ショートの左上を越えて左中間へと運んだバッティングは「今年一番の当たりです」と言っていました。確かに、その打席は今季初めてしっかりと下半身で踏ん張ってバットを振ることができていました。今後、さらによくなっていくことを期待したいですね。

 嬉しい誤算の新人・植

 マデラは開幕1カ月ほどはなかなか結果を残すことができずにいました。相手投手が警戒し、ストライクを投げてこない中、打ちたいと思うあまり、ボール球に手を出してはイライラするという悪循環に陥っていたのです。しかし、1カ月も過ぎると、しっかりとボールを選ぶようになり、四球を取れるようになってきたことで打率も残せるようになりました。今後はもう少しミスショットを減らすことができれば、さらにいい結果が出せるようになるでしょう。

 また、予想以上に活躍してくれているのが、新人の植聡二郎(盛岡大学附属高−金沢学院大)です。当初はなんとか無難にこなしてくれれば、くらいに思っていたのですが、ミートすることに長け、追い込まれても片手1本でチョコンと内野の間を抜ける打球を打つことができます。現在はチームで4位の打率3割4厘をマーク。これは嬉しい誤算でした。

 しかし、石川の打線は長打が少ないため、相手の外野陣が前に詰めやすく、それだけヒットコースが狭まってしまいます。ですから、簡単にフライを上げず、強いゴロやライナー性の打球を打つこと、そして相手守備を散らすためにも左右に振り分けること。今後は、こうした点を心掛けたバッティングをしていってほしいと思っています。

 打線の調子がいい一方で、守備ではエラーの多さが目立っています。現在、エラーの数はリーグワーストです。特に要の二遊間にミスが多いのです。今季、ショートには昨季まで外野手だった佐竹由匡(清陵情報高−日本ベースボールセキュリティ専門学校)をコンバートさせました。実は、なかなかショートを守れるような選手が見つからなかったのが理由です。佐竹は身体能力に優れ、強肩で動きにも素早さがあります。そこで、彼なら練習すればなんとかショートを守れるようになるのでは、と思ったのです。これまでは内野手の動きをマスターするのに苦労していましたが、ようやく慣れてきたのか、足の運びもスムーズになってきました。後期に入って安定した守備を見せていますので、バッティングとともに今後に期待したいですね。

 守備の安定化が投手力アップに

 投手陣はといいますと、正直、いいとは言えません。真っ直ぐで押すタイプの投手が多いのですが、ほとんどの投手が勝負できる変化球がないために、真っ直ぐ一本で勝負するため、相手打者にフルスイングされます。そのために防御率こそリーグ3位ですが、被本塁打数はリーグ最多の19本です。松山傑(横浜商科大学附属高−北海道日本ハム、横浜)や鈴木幸介(成立学園高−日本ウェルネススポーツ専門学校−信濃グランセローズ)などは、勝負できる変化球さえあれば、そうそう打たれる投手ではありません。ですから、後期の間に少しでも変化球の精度を上げていってほしいと思います。

 現在、先発の勝ち頭はハモンド(米国)と松田翔太(金沢学院東高−広島<育成>)の新人2人です。ハモンドはスピードもあり、キレのあるスライダーもありますので、普通に投げてさえくれれば、十分に勝ち星が計算できる投手です。米国と比較すると軟らかめの日本のマウンドにもだいぶ慣れ、6月以降は安定したピッチングを続けています。

 一方、松田は育成とはいえ、一度はNPBのドラフトにかかった投手ですから、即戦力として見ていました。実際、精密なコントロールとまではいきませんが、球種は豊富で、右打者も左打者も苦にしていません。縦に落としたかと思えば、ストレートでさしこんだりと、うまく配球さえすれば試合をつくることができます。ただ、一つ課題をあげるとすれば、球威がないこと。身長180センチ、体重68キロと非常に細身であるが故に、スピードは130キロ半ば。これを140キロ前後にまで上げることができれば、打線に頼ることなく、自分のピッチングだけで勝つことのできる投手になるはずです。そうすれば、サウスポーですし、再びNPBに上がる可能性も出てくるはずです。

 チームとしての最大の課題は、やはり守備です。前期はエラー絡みで余計な失点が少なくありませんでした。加えて、ダブルプレーを取れば、チェンジできる場面でも、今の守備力ではダブルプレーが取れずに、ランナーを残してしまいます。そうなれば、投手が考えなければいけないことが増えてしまいます。例えば、「抑えなければいけない」と力みが生じるなど、総合的にあまりいい傾向とは言えません。逆に守備が安定すれば、投手のみならず、試合全体にいいリズムが生まれてきます。秋にはリーグチャンピオン、そして独立リーグ連覇を達成するためにも、守備を安定させることがカギを握るはずです。


森慎二(もり・しんじ)プロフィール>:石川ミリオンスターズ監督
1974年9月12日、山口県出身、岩国工高卒業後、新日鉄光、新日鉄君津を経て、1997年にドラフト2位で西武に入団。途中、先発からリリーバーに転向し、2000年にはクローザーとして23セーブを挙げる。貴重なセットアッパーとしてチームを支えた02、03年には最優秀中継ぎ投手に輝いた。05年オフ、ポスティングシステムによりタンパベイ・デビルレイズ(現レイズ)に移籍。2年間のメジャー契約を結ぶも、オープン戦初登板で右肩を脱臼。07年、球団から契約を解除されたものの、復帰を目指してリハビリを続けてきた。09年より石川ミリオンスターズのプレーイングコーチに就任。10年からは金森栄治前監督の後を引き継ぎ、2代目監督としてチームの指揮を執っている。
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