「まったく納得がいっていない」
 昨季のプレーを振り返る皆本明日香に笑顔はなかった。上尾メディックスに加入して2年目の昨季、皆本はレギュラーシーズン22試合すべてに出場し、敢闘賞を受賞した。チームも?プレミアリーグ昇格には至らなかったものの、準優勝(20勝2敗)と決して悪くない結果に見える。果たして、何が彼女をこう感じさせたのか。
 苦悩の先に見えた成長

 データを見ると、アタック決定率が42.0パーセントであった1年目の2010−11シーズンに対し、昨季は36.6パーセントに減少した。これは皆本の最大の武器である攻撃力が低下したことを意味している。この要因として、監督の吉田敏明はチーム事情が関わっている点をあげた。

「シーズン前にセッターが変わって、今まで積み上げてきたチーム全体のコンビネーションが乱れてしまいました。それを解消しようと練習したものの、連携を完成できないままシーズンを戦ってしまいました」

 また、10−11シーズンでリーグMVPを獲得したことで、対戦相手からのマークが厳しくなったことも要因のひとつだ。吉田曰く、皆本に対する相手のブロック、レシーブの集中力は10−11シーズンとは比べ物にならないほどの多さだったという。
「皆本のスパイクをブロック、または拾って得点につなげた時の相手の喜びようがすごいんです。彼女を完全にエースとして認識しているからでしょうね」

 皆本自身はどう分析しているのか。
「自分のレベルが下がったわけではないと思うんです。ただ、ルーキーとして思いきりプレーすればよかった1年目とは違い、昨季はチーム全体を考えることが多くなりました。そこで、少し考えすぎてしまったという感じですね。言い訳になってしまいますが、それが迷いや弱気となり、スパイクを打ち切れないなどのプレーにつながってしまったのかなと思います」

 マークが厳しくなっても、得点を奪い取るのが真のエースである。だが、昨季の皆本は外因的な要素があったとはいえ、パフォーマンスが低下したことは事実だ。だからこそ、皆本は「納得がいっていない」のだろう。彼女が感じた悔しさは、エースとしての責任感からくるものだった。

 しかし、タダでは転ばなかった。皆本は苦しいシーズンの中でも、進化していたのである。皆本の成長を感じたと語るのは、筑波大学時代の恩師・中西康巳だ。昨年12月、皆本はユニバーシアード(セルビア)の日本代表に選出された。この時の監督が中西だった。大学を卒業して2年、かつての指揮官は皆本のどんな部分に成長を感じたのか。

「選抜チームは、異なるチームの選手が集まる上に準備期間が短いため、細かい連携を図ることはなかなか難しい。アタッカーに限って言えば、所属チームでプレーしている時とセッターが違います。つまり、トスのタイミングや高さなどが異なる。ただ、皆本はセッターが変わっていく状況にうまく対応できていたように感じます。おそらく、上尾でセッターが固定されていない状況で、質の異なるトスを打つことを重ねたのではないでしょう」

 様々なトスへの対応力の向上。皆本は苦しみながらも、着実に成長していたのだ。トスに限らず、様々なプレーへの対応力は今後、全日本入りを目指す上でも重要になってくる。

 プレミア昇格の先に

 現在の全日本において、皆本のポジションに君臨するのが江畑幸子(日立)だ。高さを生かした力強いスパイクに加え、バックアタックも強烈である。彼女は2010年に全日本入りを果たすと、瞬く間に重要なポイントゲッターとなった。皆本が全日本に選ばれ、さらに定着するためには、この江畑からポジションを奪わなければならない。

 吉田は「皆本には、江畑に勝ってほしい。勝てる可能性は十分にありますから」と熱を込めて語り、そしてこう続けた。
「江畑はスパイク力は高いが、守備に難があります。ですから、サーブレシーブには参加しないわけです。その点、皆本は彼女に負けない攻撃力と、レシーブ、トス、ブロックなど、すべてのプレーを高いレベルでこなす起用さがあるんです」

 中西は「日本人で世界相手にオープントスを打ち切れる選手はそういない」と評価する。昨年のユニバーシアード代表で、それを強く感じたという。日本選手はクイック攻撃など速さで相手をかわすことが多い。しかし、皆本は高さと力で世界に対抗できるのだ。皆本自身も「自分の武器は高さ」と絶対の自信を持っている。

 では、皆本がさらなるステップアップを果たすために必要なことは何なのか。吉田はサーブレシーブのレベルアップをあげた。試合中、エースの皆本には、相手のサーブが集中する。上尾の得点源である攻撃力を封じ、かつプレーのリズムを崩すためだ。そこでサーブレシーブが崩れれば、セッターがあげるトスの精度低下につながる。持ち前の攻撃力を生かすためには、サーブレシーブの安定が欠かせないのだ。

 さらに指揮官はメンタル面での成長も求めている。
「どんな選手にも調子のアップ・ダウンはあります。しかし、皆本は1つでもミスを犯すと、弱気になる時がある。そうなると、次のプレーにも影響してしまいます。ミスを反省する必要はありますが、引きずってはいけません。どんな時でも、安定したメンタリティを保てるようになる必要があると思います」

 ロンドン五輪が終われば、すぐにリオデジャネイロ五輪出場に向けた代表争いが始まる。ただ、皆本にとって代表選出は最優先事項ではない。
「とにかく、プレミアに昇格したいですね」
 今季からは副キャプテンに任命され、彼女にかかる期待と責任はさらに大きくなった。プレミアに昇格すれば、全日本の選手との対戦機会が増える。そこで結果を残せば、自ずと代表への道も開けてくるはずだ。エースとしてまずはチームを昇格に導く。その任務を成し遂げた時にこそ、皆本には輝く“明日”が待っている。

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(おわり)

皆本明日香(みなもと・あすか)
1988年2月、徳島県生まれ。城南高、筑波大を経て、2010年、Vチャレンジリーグの上尾メディックスに加入。小学5年からバレーを始める。中学3年時には徳島選抜としてJOC杯に出場。高校時代には春高バレーに2年連続出場を果たし、全日本ユース代表にも選ばれた。06年、筑波大へ進学。大学2年時に左ヒザ前十字靭帯を断裂するも、約半年のリハビリ期間を経て復帰。4年時にはキャプテンとしてチームを関東リーグ、全日本インカレ制覇に導く。09年に上尾へ加入が内定。09−10シーズンは内定選手としてリーグ戦を経験した。正式加入後の10−11シーズンでチャレンジリーグ最優秀新人選手賞を獲得。昨季は同リーグ敢闘賞を受賞した。ポジションはウイングスパイカー(レフト)。豊かなジャンプ力と長いリーチを生かした高さのあるスパイクが武器。身長175センチ。背番号16。

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(鈴木友多)
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