五輪を戦った男女の代表選手とスタッフのみなさん、お疲れ様でした。なでしこは決勝で米国に惜敗し、金メダルとはなりませんでしたが、日本女子初のメダルを獲得。男子もメダルには届かなかったものの、世界4位です。大会を通じて、日本サッカーのレベルの高さを世界に示せたのではないでしょうか。
 なでしこ、今後のカギは“大型化”

 まずは、なでしこの戦いぶりを振り返ってみましょう。昨年のW杯同様、素晴らしかったのは組織として統率のとれた戦い方や、リードされても最後まで諦めないメンタルの強さです。全員で辛抱強く戦うサッカーが、なでしこのスタイルとして確立されていると改めて感じました。

 W杯女王として対戦相手に警戒されたなか、決勝まで勝ち進み、米国と互角以上に渡り合った点は、銀メダルとはいえ立派です。佐々木則夫監督をはじめ、日本女子サッカーが継続してスタイルを磨き上げてきた成果が史上初のメダルとして実ったと強く思いました。

 ただ、今後も世界のトップを争い続けていくためには、改革が必要なのも事実です。それは選手の大型化。いくら組織で戦っているとはいえ、試合のなかでは個人の力で局面を打開しなければならない場面があります。ゴール前でのポストプレーや、パスコースがないときにドリブルで仕掛けるなど、今のなでしこには、ここぞという時の体格の強さ、突破力がまだ足りません。

 今回の五輪では、フランス、ブラジルの大柄な選手たちが、なでしこのような細かいサッカーを展開する場面もありました。まだまだ荒削りとはいえ、これによって相手のペースになってしまった時間帯が生じたのも事実です。率直に言って、内容的に日本は「よく凌いで勝ったな」という面があることは否めません。次のW杯、リオデジャネイロ五輪に向けて、なでしこはさらに研究されるでしょう。より細かいサッカーを他国が磨いてきた時、日本はどう対処すべきか。フィジカルの強さでも相手と互角以上に渡りあえるような選手の育成、発掘をしていく必要があります。

 現時点で、そのモデルとなるのは大儀見優季(ポツダム)です。技術でもフィジカルでも世界と勝負できる彼女のような選手をもっと育てていくべきでしょう。なでしこらしいサッカーを継承しつつ、フィジカルの強化、大型化を目指す。これが今後の課題になっていくと思われます。

 墓穴を掘った日韓戦

 男子は3位決定戦で敗れてメダルを逃す悔しい幕引きとなりました。韓国戦では、しっかりと相手に守られ、カウンターから簡単に失点するという一番やられたくないかたちで負けてしまいましたね。この試合、韓国は序盤から、日本の組織的なサッカーにつきあわず、中盤をほぼ省略するキック&ラッシュの戦い方を採ってきました。五輪では経験していないやり方とはいえ、日本はグループリーグから準々決勝まで4試合無失点です。今まで通りの安定した守りなら、問題なく対処できるだろうと私は見ていました。

 ところが、日本には守りのミスが続出しました。ロングボールのクリアを後ろにそらしたり、マークの受け渡しが遅れたり……。相手の戦術以前に日本が墓穴を掘ってしまったのです。今大会ではスペインやメキシコなど組織的で細かいサッカーを展開するチームと対戦してきました。ところが、韓国が異なる戦い方をしてきた途端、そのギャップに対応できなくなってしまったように映りました。

 1点目を奪われたシーンは、それが如実に表れていたと思います。吉田麻也(VVV)がロングボールの落下点を見誤り、クリアを後ろにそらしたところをパク・チュヨンに拾われてドリブルを許したのです。パクには鈴木大輔(新潟)が対応しましたが、ズルズルと下がりすぎてしまいました。DFは相手をゴールに近づけないようにプレーすることが最優先です。相手に長い距離をドリブルされる前に、早い段階でファールをしてでも止めることが求められたでしょう。

 かといって鈴木だけが悪いわけではありません。パクを後ろから追いかけてきた日本の選手が、素早くカバーリングに入り、鈴木にトライさせる状況をつくることが必要でした。あの時の守備陣は、その決断ができていなかったようにみえます。疲れているなかで、いかにベストな判断をするか。しっかりとやるべきことをやれるか。これは試合に勝つ上での永遠のテーマと言えるでしょう。

 一方の攻撃陣は、なぜ引いて守る韓国守備網をこじ開けることができなかったのでしょうか。それは個の力で局面を打開していける選手がいなかったからです。細かくパスをつないで攻撃を組み立てるのはいいのですが、肝心のゴールに迫る力強さが選手から感じられませんでした。もっとPA付近で仕掛けていけば、DFはファウルを恐れて、それほど激しいタックルはできません。また、思い切ってミドルシュートを打てば、ピッチも荒れていた分、GKの前でイレギュラーバウンドしたかもしれません。すべて「たられば」になってしまいますが、日本の攻撃陣にそういったチャレンジの姿勢が少なかった点は残念に思いました。

 また、思い切った攻撃が仕掛けられなかった大きな原因には、コマ不足もあげられます。つまり、控え選手に攻撃のアクセントとして起用できる選手がいなかったのです。交代とはいっても、疲労や負傷によるものが多く、流れをガラリと変えられる選手がベンチには不在でした。

 A代表の本田圭佑(CSKAモスクワ)や香川真司(マンU)は、苦しい時にこそ真価を発揮します。本田は強靭なフィジカルでボールをキープして味方の選手が動き出す時間をつくれますし、シュート力も高い。香川はダイナモとして前線を走りまわり、守備網のギャップを突く鋭さがあります。彼らのようにチームに勢いを生み出せる選手を若い世代から育成していくべきでしょう。

 世界に評価された日本の戦い

 ただ、関塚ジャパンの選手たちは悲観する必要はありません。というのも、今大会で選手は個々の特徴を試合で表現できていました。だからこそ、彼らは世界のベスト4に入ったのです。多くの海外クラブのスカウトが関塚ジャパンの選手に興味を示したとの報道もあります。それだけ日本は世界に評価される戦いをしたのです。

 大会全体を通じてみると、攻撃では永井謙佑(名古屋)が印象に残っています。モロッコ戦では圧倒的なスピードでDFを抜き去り、冷静にループシュートでゴールに沈めました。献身的に前線からプレッシングもしていましたし、自身の武器であるスピードの使い方をよく理解していたと感じます。

 守りでは吉田が冷静な読みと空中戦などの競り合いで外国人選手に引けをとりませんでした。これは所属するオランダリーグでの経験が大きいのでしょう。彼にとって普段の練習や試合で体格で勝る相手と対峙するのは当たり前。だから、いざ代表戦で外国人とマッチアップしても戸惑いが出ないのです。センターバックでコンビを組んだ鈴木も大きな刺激を受けたのではないでしょうか。

 男女の五輪代表選手たちにはロンドンで蓄積した経験を生かし、所属クラブでのプレーで表現してほしいですね。彼らは今後、日本サッカーの手本にならなければなりません。現在、鹿島ハイツスポーツプラザにも合宿で多くのサッカー選手が日本代表を目指してボールを追いかけています。彼、彼女たちが目にしているのは関塚ジャパンの選手たちです。なでしこの選手たちです。五輪の代表選手たちが今後、ロンドンで体感した“世界”を見せてくれないと、夢に向かって頑張っている子供たちが、何を見、何を真似し、どんなプレーをすべきかという基準が分かりません。関塚ジャパンとなでしこの選手たちには、子供たちの目標であるという自覚を胸に、今後もプレーしてほしいと願っています。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
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