第286回「TVは誰のためのもの?」

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 こんなに一気に冷めてしまうのか?

 と感じるくらい熱気が沈んでしまった。

 もちろん日本中が3月上旬に熱狂したWBC(ワールドベースボールクラシック)の話である。

 

 開幕前から予選リーグ時の、国内の盛り上がりと報道は、前回大会の熱量を彷彿させるもので、同時開催のパラリンピックが心配になるほど。しかし、決勝トーナメント初戦で負けた途端に冷めるのも早かった。

 

 結局は、WBCが見たいのではなく、日本代表で盛り上がっていただけなのか?

 と言いたくなるくらいだが、それだけ侍ジャパンに対する期待は大きかった。

 

 メジャーリーグが主導で開催されてきたWBC。だからこそ主催も世界的な競技団体ではなく「メジャーリーグ機構」と「メジャーリーグ選手会」による共同設立会社の「WBCI」となっている。つまりどこまで行っても、メジャーリーグの興行、メジャーリーグの一部であるというところから脱することはできないが、開催を重ねるごとに各国の取り組みにも力が入り、盛り上がってきていることは間違いない。今回、アメリカや日本など過去優勝国ではなく、ベネズエラやイタリアなどが活躍したことも、今後の広がりに向けては好材料かもしれない。ただ、日本国内では「ベスト8で負けた」という事実が重くのしかかる。

 

 敗因分析は、専門家に任せるが、私が注目したのはTV放映。

 ご存知のように、今回、国内では地上波TVで見られなくなり、有料のNetflixでの独占放映となった。つまり契約者以外は見ることができないわけで、様々な議論が巻き起こった。

 

「これだけのイベントを特定の人しか見られないというのはおかしい」というNetflixに対する批判的な意見が多かったようだが、この機会にNetflixの登録者は300万人増えたとか。広告つきスタンダード(月額890円)で全試合視聴可能だから、もしすべての人が1年間契約すると、それだけで320億円! もし半数の方が解約したとしても160億円となり、WBCIに支払った放送権料150億円をペイできてしまう計算になる。

 

 残念ながら今の民放にこの金額は出せない。勢いが削がれている民放がそれだけのスポンサーを集めるのは至難の業だろう。地上波TV局の凋落と、世界的な配信会社の勢いの差をまざまざと見せつけられたということになる。もちろん、世界規模の会社と、国内規模の会社という資本格差も印象付けられた。

 

“タダで当然”という認識

 もちろんこの後、解約ラッシュは続くだろう。しかし、一度契約しそのサービスを享受すると一定数は必ず残る。だからこそ有料配信局は数カ月無料サービスなどを行い、最初のハードルを越えさせるわけだ。さらに、今回の件ですでに知名度があった若年層だけでなく、日本国内全土において「Netflix」の名前は広がった。つまり、この時点で十二分にNetflixにメリットがあったと言えるだろう。ただでさえ、若年層のTV離れが顕著になっている中、今回の一件は、今後のTV業界の方向性を示し、決定付けるきっかけになったのではないか……。

 

 一方、国民的イベントは広く国民が見られるようにすべきという「ユニバーサルアクセス権」も話題になった。これはイギリスの制度で、日本でも導入を検討していくべきだ、という考え方。確かに理解はできるが、ポイントはその国民的イベントを誰が作っているのか。このイベントはメジャーリーグ機構とメジャーリーグ選手会が連携して運営している。つまり彼らが経営しているわけで、国民が注視するからとはいえ、その制作は彼らの権利と責任のもとにある。誰かが彼らにその負担分を払わなければ成立しないのは明白だ。

 

 それを今までは、民放なりNHKなりが払っていたわけで、それは五輪やサッカーワールドカップなどでも同じ。そしてその源泉は、スポンサー料であったり、受信料であったのだ。

 

 スポンサーが集まらないとするなら、受信料で払う? それなら受益者負担とする今回のケースと大きく変わらない。もし本当に広く開放するなら、税金で権利を買い取るということになってしまう。

 

 そもそもTVはタダじゃない。誰かが番組を企画制作し、そのお金は誰かが出している。だが、日本人の中でどこかにTV放送はタダで当然という意識が強く根付いていないか。だからこそ視聴料を徴収しているNHKに対するパッシングが時として起きる。そして、この無料神話を支えてきたスポンサーが離れてくると、この構造は成立しない。

 

 つまり、今は有料配信局が悪いとかいいとかの問題ではなく、日本におけるTVの構造が問われている。それを今回の一件ではっきりと露呈したのではないだろうか。

 これを決めるのはTV業界ではない。ニーズの変化が、業界再編を後押しする。

 そう、決めるのは我々視聴者だ。


 そんな視点で見ると、TVの見方が今までと違って見えてくる!?

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール>

 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17~25年まで東京都議会議員を務めた。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

 

>>白戸太朗オフィシャルサイト
>>株式会社アスロニア ホームページ

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