残り9試合で首位とは2ゲーム差。逆転優勝を目指すには、トーナメント方式で1試合1試合を勝っていくことが求められます。プレッシャーがかかる戦いでは、ミスをしたほうが負けです。まだまだ徳島もミスが多いですが、選手たちにはこれまで練習してきたことを信じて、思い切って勝負をしてほしいと感じています。
 前期と比較すれば投打ともチーム状態は確実に良くなっています。投手では岩根成海が先発に転向し、後期で3勝。最初は長いイニングを投げることに慣れない部分もあったようですが、8月4日には首位・愛媛相手に8回無失点の好投。その他の登板でも試合はまずまずつくれています。

 昨年、岩根はセットアッパーとして防御率0.68と素晴らしい活躍をしました。ただ、今季は投手陣が大幅に入れ替わる中、当初は先発の柱として投げてもらう構想でした。しかし、ルーキーの山口直紘らが先発として使えるメドが立ち、ブルペンの陣容が固まらなかったことから、前期では昨季同様、終盤のイニングを任せることになったのです。

 しかし、今季の岩根は昨年のような力でねじ伏せるピッチングがなかなか見られませんでした。前回も紹介したように結果を出そうとするあまり、かえって自らの持ち味を見失い、負の連鎖に陥っていたのです。ストレートで押せばいいところを変化球でかわそうとして打たれたり、ボールが先行する……。先発に配置転換しても、このスタイルはなかなか変わりませんでした。

 迎えた8月11日の福岡ソフトバンク3軍戦。岩根はNPB相手にかわすピッチングを繰り返し、3回5失点でKOされました。試合後、僕は彼に注意をしました。
「せっかくのNPBとの対戦でかわしていたら意味がない。もっと勝負しないとスカウトにはアピールできないよ」
 かなり厳しく指摘したのが、少しは効いたのでしょうか。それからはキャッチャーの山城と話し合って、ストレートでインコースを徹底して突くケースも増えてきました。

 ピッチングの基本はあくまでもストレート。ストレートがあっての変化球です。この原点を忘れると長続きしません。ましてや岩根のウリは勢いのあるストレート。残り試合も、その強みを最大限生かした内容を披露してほしいと思っています。

 岩根同様、ストレートに意識を向けてほしいのが、中継ぎ左腕のジェイソン・ノーダムです。彼は左のサイドスローから投げ込むクロスファイアが武器。左封じとしてNPBの1軍でも活躍できる力を持っています。ただ、彼も徳島に来て覚えたスライダーで、かわそうとするピッチングが目立ってきました。決してスライダーの精度は高くないため、カウントを悪くして四球を与える悪循環にハマりかけています。この点は本人にも気をつけるよう伝えました。オリックス入りしたアレッサンドロ・マエストリに続いてNPBに行くためには、もっとクロスファイアに磨きをかけてほしいものです。

 もちろんストレートが基本といっても、それだけではピッチングは組み立てられません。この点で課題が見られるのが、現在、抑えを任せているシレットでしょう。彼は少し自分のストレートに過信している面があります。

 9回で3点リードしながら、逆転サヨナラ負けを喫した愛媛戦はその典型でしょう。不用意にストレートを連投してソロホームランをくらい、リズムを完全に崩してしまいました。2死まではこぎつけたものの、連打を浴びて追いつかれ、最後は押し出し四球で試合終了。完全に独り相撲でした。「ストレートあっての変化球」という表現は、ストレートは当然ながら、変化球もなければ成立しません。シレットの場合は、ストレート以外に自信を持って投げ込める変化球をしっかり習得してほしいものです。

 ピッチャーが間違った方向に進んでいる時、試合中に修正を加えるのはキャッチャーの役割です。キャッチャーは守りにおける現場監督と言われるように、ひとつの配球、リードが勝敗を大きく左右します。現在の徳島で、その重要なポジションを担っているのは1年目の山城一樹。頑張りは認めますが、ドラフト指名を狙うのであれば、更なる勉強が必要です。

 彼の課題はピッチャーに首を振られた時の対処法です。山城はサインを拒絶されると、ほぼ100%球種を変えて妥協します。しかし、自分が最適と考えた配球なら、時には譲らない頑固さも必要でしょう。すぐにサインを変えるキャッチャーは、ピッチャーから見ると自信がないように映ります。これでは信用して投げられません。

 ピッチャーにサインを納得させるには、日頃からの密なコミュニケーションが不可欠です。そして、もしピッチャーの希望通りに投げさせるなら、責任を持って放るよう徹底することが大切です。バッテリー間の意思疎通や確認作業を怠れば、勝負どころで痛い目に遭います。厳しいことを書きましたが、彼はNPBを狙える力を持っています。それだけに、どうしても物足りなさを感じてしまうのです。

 打撃では元広島の長内孝コーチが就任し、ひとりひとり丁寧に指導をしてもらっています。攻撃の指示も明確になり、前期と比べてつながりが出てきました。泣いても笑っても残り9試合。後期優勝してチーグチャンピオンシップに出ない限り、今季は終了です。首位を走る愛媛はV経験のある選手が少なく、これからは重圧がかかってくるはず。追いかける者の強みを発揮し、悔いのない9試合にしたいものです。

 ホームゲームも、あと3試合となりました。最後の最後まで諦めず、戦い抜きますので、ファンの皆さんの後押しをよろしくお願いします。


島田直也(しまだ・なおや)プロフィール>:徳島インディゴソックス監督
1970年3月17日、千葉県出身。常総学院時代には甲子園に春夏連続出場を果たし、夏は準優勝に輝いた。1988年、ドラフト外で日本ハムに入団。92年に大洋に移籍し、プロ初勝利を挙げる。94年には50試合に登板してチーム最多の9勝をあげると、翌年には初の2ケタ勝利をマーク。97年には最優秀中継ぎ投手を受賞し、98年は横浜の38年ぶりの日本一に貢献した。01年にはヤクルトに移籍し、2度目の日本一を経験。03年に近鉄に移籍し、その年限りで現役を引退した。日本ハムの打撃投手を経て、07年よりBCリーグ・信濃の投手コーチに。11年から徳島の投手コーチを経て、12年より監督に就任。
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